第18話 陽キャ絶対領域を突破する!
ミズキさんと私は駅の近くにある、有名なコーヒーショップのチェーン店へと入った。
コミュケーション能力最底辺の私にとっては、慣れないお店で注文するだけでもかなり難易度が高い。ミズキさんの前で挙動不審全開の姿を見せたくはないし、どうしたものかと頭を抱えていた。
ところが、私のそんな悩みはあまりにあっさりと解消される。
「うちがまとめて頼んでくるけん。何飲むと?」
見知らぬカフェ店員ではなく、ミズキさんが相手ならなんとか話せる。たかが、コーヒーショップのオーダー程度でも私にとっては、勇気と思い切りのいることで――、彼女の言葉はまさに渡りに船だった。
ミズキさんの好意に甘え、私は店内を見回して空いている席を探した。
溢れんばかりの「陽キャ」オーラを放つ週末の学生、銀色の林檎パソコンを操り「デキる」オーラを放つ大人。
漆黒で、陰で、負のオーラを全身に纏う私を拒絶するさまざまな波動が、店内に入り乱れていた。
運よく店の最奥、窓際に座っていた2人組が席を離れた。私はミズキさんより先にそこへ向かおうとするが、店の空気がまるで私を拒んでいるような錯覚に陥る。なにもないところで私は立ち止まり、たじろいでしまった。
「――あそこん席、空いとるね。いこっか?」
狼狽える私の横をミズキさんが通り抜ける。彼女の背中がまるで「導」に思えた。
2人掛けの小さな席、私は少しの間、ミズキさんと向かい合っていた。こういう時、なにか気の利いた言葉を言えたらいいのだけど、私にそんなスキルはない。
笑顔を浮かべる彼女の顔――、正確には目を合わせられないので口から喉のあたりを見つめていた私は、その視線をテーブルへとずらす。そこにはトレイに乗せられたキャラメル・ラテがあり、枯れ葉色のソースが格子状にかかっていた。
「ぬくかうちに飲みね?」
ミズキさんに促され、カップを手に取ったところで私はハッとした。
「あっ、その……、お代、お金――」
「よかよ、よかよか。うち、こう見えとっても社会人やけん、奢っちゃるばい。コウちゃんまだ学生じゃろ?」
彼女はそう言ってニッと口角を上げて笑うと、こんもりを泡立ったコーヒーを口に含んだ。私も少し遅れてカップを手に取り、同じようにラテを飲む。
ミズキさんの唇の上には薄っすらと泡の口髭ができていた。私がそこを見ているのに気付いたのか、彼女はペロリと舌でそれを舐めると、またもニッと子どもっぽくも見える笑顔を見せた。
「コウちゃん――、コウちゃんでよかね? 今、高校生? 夜、ようお店来よったよね?」
今更だけど、私は理解した。
あの「サワジリケツオ」を大音量で流した夜より前から、深夜に訪れる女子高生、私はあのコンビニで目立っていたのだ。
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