第3章: お人形さんごっこ
暗い。
怖い。
寒い。
……どれくらい、ここにいるんだろう?
時間の感覚が分からない。
目を開けても、何も見えない。
「誰か……」
声がかすれた。喉がひりついた。
「……お願い……」
助けて。
何度そう呟いたか分からない。
誰も答えてくれないのに、それでも呟き続けた。
最初は、叫んでいた。
爪が剥がれるほど壁を叩き、喉が潰れるほど泣き叫んだ。
でも、誰も来ない。
やがて、声も出なくなった。
暗闇が、じわじわと私を呑み込んでいく。
心が溶け、身体が崩れ、何も感じなくなっていく。
あれ?
—— 私って、誰?
***
扉が開く音がした。
「メイ。」
名を呼ばれた。
メイ?
それ、誰?
ぼんやりと瞬きをする。
光が、眩しい。
ふわりと抱き上げられた。
温かい。
ふにゃりと力が抜けた。
「ごめんね。もう、ひとりにしないよ。」
やさしい声。
あなたは誰?
私は、誰?
「大丈夫だよ、メイ。」
大丈夫。
そう言われたら、何も考えなくていい気がした。
***
メイを抱きしめる。
ああ、ひどい。
痩せ細って、瞳に光がない。
まるで、抜け殻みたいだ。
それでも、美しい。
「安心して、大丈夫だよ。」
地下室から連れ出し、ベッドに寝かせる。
メイは何の抵抗もしない。
ただ、ぼんやりと天井を見つめている。
まばたきさえ、ゆっくりで。
しゃべらない。動かない。
ただ、呼吸だけをしている。
……壊れたんだな。
僕が、壊したんだ。
なのに、どうしようもなく愛おしい。
「メイ、喉乾いてない?」
スプーンで水を含ませる。
唇に触れると、ゆっくりと口を開けた。
いい子だ。
喉が上下するたび、僕の心は満たされる。
彼女を生かしているのは、僕だ。
「メイ、そろそろお風呂に入ろうか。」
優しく語りかける。
彼女は何も言わない。
髪を梳かし、食事を口に運び、綺麗な服を着せる。
僕がすべてしてあげる。
まるで人形みたいな彼女を、僕だけが生かしてあげられる。
それは、奇妙な幸福だった。
***
夜。
薄暗い部屋。
静寂を裂くのは、メイのかすかな吐息だけだった。
壊れた彼女は、もう抵抗しない。
僕が触れれば、触れたまま。
僕が押し倒せば、倒れたまま。
熱を帯びた肌。
かすかに揺れる喉。
声は出さない。
いや、出せないのかもしれない。
だが、震える息が僕の耳をくすぐる。
指が触れれば、身体はわずかに反応する。
……生理的なものだと、わかっている。
それでも、
蒸気した頬も、漏れる甘い吐息も、
僕を狂わせるには十分すぎた。
何度も、何度も、メイの中に精を放った。
腕の中で震える彼女を見つめる。
これは愛だ。
間違いなく、僕の愛だ。
このままずっと、僕のそばにいてくれ。
永遠に、僕の人形でいてくれ。
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