夏休みまでの3つの壁 7話〜8話
7話
2人で再び外に出て、日差しの中、バス停に向かう。
バス停にある椅子が空いていたので腰掛ける。
次のバスはあと2分後。
長時間待つことにならなくてよかった。
「夕さん、あの人はなぜ傘を差しているのですか?」
周りを見渡すと、斜め向かいのバス停に日傘を差している人が立っている。
「あれは日傘だよ」
「日傘、ですか?」
「日焼け対策に差してるのかな? 多分」
「日焼け……」
「日焼けは……詳しくは説明できないけど、太陽光に当たり続けた場所が黒くなったり、赤くなったりすること。赤くなったらヒリヒリする」
「そうなんですね。ありがとうございます」
「夜奈も欲しい? 女子は結構日焼け嫌がるイメージだけど。秋川も日焼けは女の敵って言ってたし」
「痛くなるのは嫌ですし、お財布と相談して大丈夫そうなら買います」
「そっか。日傘買えなくても、日焼け止めのクリームとかもあるし。まあ、詳しいことは秋川に聞いて。絶対、俺より知ってるから」
「わかりました。…………、夕さんは、日焼けしていない私と、している私どっちがかわいいと思いますか?」
「へ? ……、え!?」
「い、いえ! なんでもないです!」
そう言って顔を背ける夜奈。
ただでさえ暑かったのに、今はもうクラクラするくらいに頭が熱い。
服の感想を聞いてきた時もそうだが、今日の夜奈はかなり甘えモード、というか積極的だ。
何かあったのではないかと心配になってくる。
「えっと……俺は、してない方がいいと思う」
「そ、そうですか。……では、頑張ります」
夜奈がこの調子だと、俺は熱中症になってしまうかもしれない。
いや、すでになっているかもしれない。
その後、恥ずかしさからか、夜奈はこちらを向いてくれなかった。
8話
定刻通りにバスが到着し、涼しい空気に包まれる。
今日行くショッピングモールは、夜奈が来てすぐの頃に生活用品を買いに行ったところと同じ。
あれきり行っていなかったので約1ヶ月半ぶりだ。
最寄りのバス停でバスから降り、少し歩く。入り口の前まで行くとスマホが鳴った。
秋川:『今フードコートについた。近くに来た
ら言って』
夜凪:『今入り口についたとこ』
秋川:『じゃあ、フードコートの前に潤を立
たせとくから』
夜凪:『彼氏使いが荒いなー』
ハル:『もっと言ってやってくれ』
秋川:『じゅーんー?』
ハル:『なんでもないっす』
ハルは可哀想だが、まあ、あいつも嫌ではないのだろう。
スマホを閉じ、夜奈に声をかけて中に入る。
フードコートの前まで行くと、ハルが俺たちを見つけたようで、こちらに手を振っている。
小さくてを振りかえし、ハルの近くまで行く。
「やっと来たな。うちのお姫様がお待ちかねだぞ」
「お待たせしてすみません」
「どれくらい待ってたの?」
「まだ5分くらいか? 多分な」
「そこそこ待たせてたんだ、ごめん」
「いいんだよ別に。1人で待ってたわけじゃないしな」
(幸せそうな顔しやがって)
おそらく、秋川との2人の時間を満喫していたのだろう。
「ニヤニヤしすぎ。で、席どこ?」
「あ? ああ、すまん。こっちだ」
自分の世界に入りかけていたハルをこちらの世界に連れ戻し、秋川が取ってくれている席に向かう。
「お、潤ー、こっちー」
俺たちを見つけた秋川は、先ほどのハルと同じように手を振っている。
「仲良いね。さすがカップル」
「は? そらそうだろ。付き合ってんだから」
「いや、そうなんだけど……まあ、いいや」
たまにはいじり返してみようと思ったのだが、残念ながらハルには伝わらなかった。
若干呆れながら席に座る。
「じゃあ、私注文して来るから待ってて」
「え、いきなり。いや、待ってもらってたからいいんだけど」
「じゃあ、行ってくるわ」
「了解」
2人は仲良く並んで歩いていく。
俺が緊張せずにあれと同じことをするにはどれくらいの時間がかかるだろう。
今でも、登下校時やバイトの行き帰りでは少しだけ緊張してしまう。
「お2人は本当に仲がいいですね」
夜奈も考えてていることは同じだった。
「そうだね」
「……私達も、いつかはなれるでしょうか?」
「! ……なれるよ。絶対」
今日の夜奈はやはり、いつにも増して積極的というか、大胆というか。
急に距離を縮めてきた感じだ。
そのせいで、今日はよく顔が熱くなる。
「夜奈、今のうちに何食べるか決めとこっか」
「そうですね。また、待たせてしまっては申し訳ないです」
秋川とハルが戻ってきてから、俺と夜奈は食べたいものを探しにいく。
今回夜奈が選んだのはラーメンだった。
「何にする? 結構種類あるけど」
「夕さんのおすすめはどれでしょうか?」
「はは、なんとなく聞かれる気はしてた。けど、今回は気をつけた方がいいと思うけど」
「? なぜでしょう?」
「俺、得意とまでは行かないけど、結構辛いのが好きだから。食べようと思ってるのは担々麺なんだけど」
「ではそれにします」
「大丈夫? 辛いのいける?」
「大丈夫です。確証はありませんが」
「心配だなぁ。まあ、夜奈がいいならいいんだけど」
結局、2人で同じ担々麺を注文し、それを持って席に戻る。
「へー、夕咲ちゃん。辛いのいけるんだ」
「なー、なんか意外だな」
「いえ、辛いものを食べれるのかはわかりません。ですが、夜凪さんのおすすめなので大丈夫だと思います」
「それ本当に大丈夫? 夜凪の味覚は結構バグってるけど」
「な、俺もそれ食ったことあるけど、結構辛かった記憶があるぞ」
「一応、忠告はしたんだけど。夕咲、きつかったら言って。といってもどうにかできるわけではないんだけど」
「まあ、無理そうなら私が食べたげるよ。それよりさっさと乾杯しよ!」
「どうやらうちのお姫様はもう待ちきれないみたいだな……じゃ、乾杯!」
「「「乾杯!」」」
ハルの掛け声で打ち上げが始まった。
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