夏休みまでの3つの壁 9話〜11話
9話
「じゃあ、まずは今回のテストの手応えを聞いていこうか」
まだ始まったばかりなのに秋川はノリノリだ。
個人的にはお腹が空いているので先に目の前の担々麺を食べたい。
「俺は、前よりかはいいと思う」
「私もです」
「そりゃ、お前らは勉強期間が中間と比べて1週間くらいプラスだもんな」
「いや、ほぼ毎日やってたからプラス一ヶ月くらいかな」
夜奈にはほぼ毎日勉強を教えていたので、前回のテスト終わりから考えるとそれくらいになる。
この発言に対してハルは、
「………まじかよ」
開いた口が塞がらないというやつだ。
まあ、勉強嫌いなハルからすると考えられないことなのだろう。
「すっごいね。そんだけやったら私にも勝てるかもね」
「ワンチャンあるかも、ってくらいでしょ。俺はそれより夕咲に点数負けないかが心配」
「確かに。前のテストは1週間だけであの点数だったしね。私もやばいかも」
「そんな、夜凪さんのおかげです」
「別に謙遜しなくてもいいのに」
「けど一理あるかもよ? 夜凪の教え方がすっごいわかりやすいのかもだし」
「そうかな? 普通だと思うけど。教えてるって言っても、中学のやつだし」
「そんなことないです。夜凪さんの教え方は先生並みです」
「まじかよー、夜凪ー。俺にも教えてくれよー」
「ハルには専属の教師がいるじゃん」
「そうだよ、潤。それとも何? 浮気?」
「なわないだろ。これからもよろしくお願いします!」
「うむ。よろしい」
相変わらず、2人の
だが、俺のお腹もそろそろ限界だ。
「お腹減ったからそろそろ食べよ。せっかくの担々麺冷める」
「そだね。駄弁りすぎたら遊ぶ時間なくなっちゃう。いただきまーす!」
会話を始めたやつが真っ先に食べるとはこれいかに。
だが、っそれにツッコミを入れるよりも、目の前の担々麺を食べる方が先だ。
「いただきます……うん、うまい」
ハルの言った通り、少しピリッとするが食べられないほどではない。
というか、俺にとってはちょうどいいくらいの辛さだ。
期待していた以上の美味さだったので、俺はどんどん食べ進める。
「よくそんな勢いで食えんな、お前」
「ん? 普通にうまいけど」
「横見てみな、夜凪」
「横?」
言われた通りに横を見る。
「や、やにゃぎさん。ひ、ひたが痛いでひゅ」
「ああ、やっぱりダメだったんだ。夕咲、とりあえず水飲んで」
そういうと、夜奈は紙コップ1杯分の水を一気に飲み干す。
「………、ふぅ、落ち着きました」
「な、言ったろ。夜凪の舌はバグってんだって」
「そんなことない、って言いたいけど……これを見たらそうも言えない」
夜奈の目は潤んでいる。
いくら辛いものが苦手でも、並の辛さなら一口でここまでいくことはないと思う。
「どうする夕咲? 秋川に食べてもらう?」
「いや、私も夕咲ちゃんの反応みたら怖くなってきた。そんな辛いの?」
「一口食べてみろよ。結構辛いから」
そうして秋川がスープを一口。
「辛っ!! え、夜凪はこんなのをズルズル食べてたの!?」
「そんなに? 俺は美味しいとしか思わないんだけど」
「お前、辛い系の料理は作らない方がいいぞ。毎回夕咲さんが泣くことになる」
「まじでね」
まさか、俺の舌が異常だったとは。
自炊するときのレパートリーが減ってしまったのはかなり悲しい。
(辛くて美味しいもの、結構あるのに)
「どうする? その担々麺。食べれる人夜凪しかいないけど」
「流石に、2杯も食べれる気しない。量的に」
「だよね」
「……頑張って食べます。注文したのは私なので」
「いや、無理しない方がいいって。せめて4人で分担するとかさ。ね、潤、夜凪?」
「うん、それなら」
「頑張るかー」
「うぅ、みなさん、ありがとうございます」
「ああ、夕咲、泣くほどのことじゃないって」
10話
その後、4人で協力して、なんとか完食した。
俺以外の3人は、今は水を片手にぐったりしている。
「胃が、痛い」
「俺も」
「私は舌が痛いです」
とまあ、こんな具合に。
俺は残念ながらその苦しみに共感できないので、蚊帳の外のような感覚だ。
「そんなきついなら、アイスでも買ってこよっか?」
流石にこのままのテンションで遊びにはいけない。
「ほんと!? じゃあ、私バニラで!」
「復活が早いな、まったく。他2人は?」
「俺はチョコで」
「私は……夜凪さんのおすすめでお願いします」
「さっきそれで後悔したのに。まあ、アイスなら大丈夫か。辛くないし」
3人のオーダーを聞き、席を立つ。
「あれ、奢りなの?」
「え、ああ、今回はそれでいいよ。秋川に手伝ってほしいことがあるし。ハルは……貸し一つってことで」
「遠足の時の貸しがあるだろ」
「じゃあ、チャラってことで」
「しゃーなしな」
「で、手伝ってほしいことって?」
「日焼け対策を教えてほしいんだけど、まあ、詳しいことは夕咲から聞いて。アイス屋さん結構並んでるみたいだから」
「りょーかーい」
列を見るに大体20分待ちくらいか。
季節が季節なのでアイスを求める人は多い。
夜奈からは『おすすめ』と言われたが、どうするか。
(並んでてくれて助かったな)
俺の見通しはハズレ。
結局30分くらい並んだ。
並ぶ前に考えたことは撤回だ。
11話
「はぁ、流石に並びすぎ……ん? 秋川はなんでこっち見てんの? しかもニヤニヤして」
席に戻ってきた俺をイヤーな視線が刺さる。
秋川がこの顔をしている時は俺がいじられる時だ。
「へぇ……夜凪は色白の子が好きと」
「は!?」
「ま、夕咲さんもそうだしな〜」
「ま、まさか」
恐る恐る夜奈の方を見る。
「ええと……すみません。どういう過程で至ったのか説明した方がいいと思いましたので」
「あ、あ、あ」
「あ、夜凪が壊れた」
「まあ、過去一で恥ずいことだろうしね。これは」
(言っていいこと、ダメなことはしっかり伝える。これ大事)
力なく椅子に座り、両手で顔を覆う。
「ありゃりゃ。こりゃ重症だ」
「すみません。夜凪さん。これからは気をつけます」
「いや、大丈夫。夕咲がその方が可愛いと思ったのは事実だし」
「え! あ、ありがとう、ございます。……えへへ」
「「お〜〜!」」
「なんだよ?」
「いやー、はっきり言ったから驚いて」
「ちょっとは成長したな」
「誰目線? さっさとアイス食べよ。溶けるし」
恥ずかしいのは自覚している。
だが、俺だけでは不公平だ。
ということで、夜奈には犠牲になってもらった。
(悪いこと言ってないし、いいよね?)
少し心配になって夜奈の方を見てみると、
「えへへ、かわいい……っふふ」
(すっごく嬉しそう)
「夕咲ちゃん? おーい? ダメだこりゃ」
どうやら、完全に自分の世界に入ってしまっているようだ。
「夕咲、アイス溶けるよ? おーい」
「………、! す、すみません。いただきます」
「お前ら本当にまだ付き合ってないんだよな?」
「うん。まだ言えてないことあるし」
「私も同じくです」
「はぁ、もういいや。で、夜凪はアイス、何にしたの?」
「俺はクッキー&クリームにした。面白みはないかもだけど、このクッキー好きだし」
「あー、確かに。それ美味しいよね」
「夕咲も同じやつだけど、大丈夫だった?」
「はい。とっても美味しいです!」
「なら、よかった」
それからも4人で談笑しながらアイスを食べる。
辛いものの後に食べるアイスの味は格別で、すぐに食べ終わってしまった。
「そういえば、秋川。日焼け対策のやつ、なんかいいのある?」
「もちろん。私に任せなさい! 先に買う? それとも遊んだ後?」
「後でいいんじゃないか? 荷物になるし」
「そうだな。じゃあ、先に遊ぶか」
1時間ほど居座ったフードコートを後にし、ゲームセンターに向けて移動を始める。
「夕咲はゲーセンも初めて?」
「はい。というより、ゲーム自体初めてかもしれません」
「まじか……じゃあ、昔は何して遊んで……」
「ゲーセンだけが遊ぶところじゃないでしょ」
俺は食い気味でハルの質問に答える。
「いや、お前に聞いてないんだが」
「いいだろ、別に」
俺はポケットのスマホでメッセージを飛ばす。
夜凪:『昔についての質問禁止』
ハル:『だからそういうのは先に言えって』
既読が2になったので秋川も確認してくれたようだ。
「まあ、なんでもいいか。今日は何するんだ?」
「私、あれやりたい!」
「あれって……、あのレースゲーム?」
「それそれ。ってことで確保してくる!」
「あ、走るな……ってもう遅いか」
俺が注意するよりも先に、秋川とハルはレースゲームに向けて一直線で駆け出していた。
「はぁ、よ……夕咲、俺たちも行こう」
夜奈に一声かけ、俺も歩き出す。
「……ありがとうございました」
「まぁ、あれくらいは。夕咲の昔のことは俺が一番最初に知りたいし」
「ふふっ……早くお伝えできるように努力します」
「うん。ま、今日はとにかく楽しもうよ」
「はい」
カッコつけるのはいいが、それがバレた時は恥ずかしいものだ。
(バレずにカッコつけるって難しいんだな)
また勉強することが増えてしまった。
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