夏休みまでの3つの壁 5話〜6話
5話
その後、テストまではあっという間だった。
週3回の体育の授業で色々な人と関わってみたが、友達と言えるほど仲良くなった人はいない。
テスト勉強の方は特に問題なく、順調に進んだ。
前のテストの結果を踏まえて、数学は重点的にしたし、時間に余裕を持って行えた。
夜奈の理解はとても早く、このままでは夜奈から勉強を教わる日も近いかもしれない。
「ふぅー、疲れたー」
今はもうテスト最終日で、丁度最後の教科が終わったところ。
「お疲れ様です。夜凪さん」
テストの時は名簿順なので席は問題ない。
正直一生このままの席なら楽なのに。
「ありがと。夕咲もお疲れ」
「ありがとうございます」
夜奈の表情を見る限り、テストの方は問題はなさそうだ。
このあとは、特にやることもないので少しまったりしようかと思ったのだが、
「お疲れー、お2人さん」
残念ながら許されなかった。
「一息くらいつかせてよ」
「何言ってんの? 今からつきに行くんじゃん」
「……、ああ、そうだった」
今回も前と同様、テスト後の打ち上げを行う。
だが、今回はただご飯を食べて駄弁るだけではない。
「じゃあ、家で着替えて現地集合ね」
「ええと、すみません。なんの話かさっぱりなのですが……」
「え、まさか夜凪、夕咲ちゃんに言ってないの?」
「あれ……言ってなかったっけ?」
「? おそらくは」
「うわっ、ひどいぞー夜凪」
「ご、ごめん夕咲! 勝手に言ったつもりになってた」
「実は今日は打ち上げがてら、ちょっと遊ぼうって話をしてて」
そう、今日はこれから街にある中で一番大きなショッピングモールまで行って、昼食をとり、そのあとにゲームセンターで遊ぶ計画を立てていた。
「本当にごめん」
「いえ、お気になさらず。たまにはそういうこともあります」
「本当に優しいね〜、夕咲ちゃんは。夜凪、後でジュースでも奢れよー」
「はい。わかりました」
「そんな、結構ですよ」
「夕咲ちゃん、こういう時は甘えといた方が夜凪も喜ぶよ」
「そ、そうですか? でしたら、お言葉に甘えます」
今回は事実だからいいが、将来、騙されないか心配になるチョロさだ。
「おーい。決まったんならさっさと帰ろーぜ。遊ぶ時間は長い方がいいだろ」
「潤の言う通りだね。夜凪、前買った服着て来るんだぞー。もちろん、夕咲ちゃんもね」
「わかった」
「わかりました」
元気に走って帰る2人を見送り、俺たちは俺たちのペースで家へ向かう。
テストの日は早帰りなので、太陽はまだ真上で輝いている。
灼熱の日差しの中、なんとかマンションにたどり着いた俺たちはエントランスで涼んでから部屋に向かう。
鍵を開け、部屋に入ると、
「あっっっつ」
窓から差し込む日光によって温められた空気の出迎えを受けた。
「夜奈、俺はシャワーで汗流すけど、どうする?」
「私も汗を流したいです。服がくっついて気持ち悪いので」
「そう。じゃあ、先に入っていいよ」
「いいのですか?」
「うん。ちょっとやることあるから」
「やること、ですか……お手伝いしましょうか?」
「大丈夫。扇風機出すだけだから」
「扇風機……あ、あの風が出るやつですね?」
「そう、それ。流石に暑すぎるからさ」
「では、やはり私もお手伝いを」
「なんで『やはり』? ほら、ハルたちを待たせても悪いし、これくらいは1人で十分だから」
「うー、確かに待たせるのは悪いですね……では、お願いしてもよろしいですか?」
「だから、いいって。タオルは置いてあるの使って。着替えは、前買ったやつだっけ」
「それは、自分で準備しますので」
夜奈は一礼してから自分の部屋に着替えを取りに行った。
俺は自分の部屋に向かい、押し入れから扇風機が入った段ボールを出す。
埃を拭き取って、組み立てる。
組み立て方はうろ覚えだったが、説明書を見てなんとか完成した。
リビングの空いてるコンセントにプラグを差し込んで電源ボタンを押す。
と、同時に涼しい、いや生暖かい風が送られてくる。
部屋の空気を下げないことにはどうしようもなさそうだ。
「エアコンもそろそろ使った方がいいかな」
「夕さん」
「わっ!」
ぼーっと考えていると、後ろから夜奈に声をかけられた。
急なことに、体がビクッとなり、変な声も出てしまった。
(は、恥ずかしい……)
扇風機で顔を冷ましてから夜奈の方を振り返ると、
「ゆ、夕さん、どう、でしょうか?」
俺は冷ましたはずの顔の温度が再度上昇するのを感じた。
6話
「か、かわいい……、似合ってるよ、夜奈」
「そ、そうですか、えへへ。ありがとうございます」
夜奈は、前の大人っぽい服とは違い、今回は『ザ・かわいい』と言った感じの白いワンピースを着用している。
また、オープンショルダーのワンピースになっており、俺は思わずドキッとしてしまった。
「あの……」
「ど、どうかした?」
平静を装ったつもりだったたが、俺はまだ、同様しているようだ。
少し声が裏返ってしまった。
またまた恥ずかしい。
「いえ、大したことではないのですが、……もう少し感想が欲しいなと」
(なんだか、甘えモードになってる気が)
「えと、前のやつはクールで大人っぽい感じだったけど、今回のは本当にかわいいを追求した感じ、だと……思います」
「ええと……」
「と、とにかくすっごくかわいいってこと!」
「そ、そそ、そう、ですか。えへへ、嬉しいです」
自分の語彙力のなさを痛感し、申し訳なくなってくる。
いつかはもっと上手く褒められるようになろう。
「そ、そろそろ、夕さんも入ってきてください。私も風に当たりたいので!」
自分で頼んだことなのに、どうやら夜奈は恥ずかしさに耐えきれなかったようだ。
まあ、俺も同じなのでよかった。
冷水を浴びているはずなのに、なぜか温かく感じる水で汗を流し、ハルに選んでもらったもう1セットに着替える。
俺のは、遠足に来ていた服の色を変えただけ。
素材も少し変わっている気がするが、よくわからない。
まだ少し熱い顔を手で仰ぎながら洗面所を出る。
廊下に出ると、リビングから夜奈の鼻歌が聞こえてきた。
(何やってんだろ?)
廊下の角からリビングの様子を伺ってみる。
「ふ〜ん。ふふふ〜ん」
リビングでは上機嫌の夜奈が、扇風機の前で鼻歌を歌いながらクルクルと回っている。
(かわいい、けど、あそこまで上機嫌になるかな? 俺、あんな褒め方しかできなかったんだけど)
静かに観察していると、回っている夜奈と目があった。
「「あ……」」
夜奈の顔がみるみる赤く染まっていく。
「ゆ、夕さん。い、いつからですか!?」
「あ、えっと……1分前くらいかな」
これは嘘で、本当は2分くらい上機嫌の夜奈を眺めていた。
「は、早く行って欲しかったです。うぅ、恥ずかしいです」
結果的にさっきの仕返しをしたみたいになってしまった。
いや、夜奈はこうは考えていないと思うが。
「まあまあ、落ち着いて。しっかりかわいかったよ」
「今はやめてください。もっと恥ずかしくなります」
「ああ、ほ、ほら、そろそろ行かなきゃ」
「うー、……そうですね。……これからは早めに行ってください」
「ご、ごめん」
その後、俺は夜奈の頭を撫でることでなんとか許しを得た。
結局、俺が得しかしていないのは内緒だ。
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