エピローグ 4話

4話


 そして週明け。


 少し憂鬱な気持ちにもなったが、夕咲が家に来る前ほどではない。


 布団を跳ね除け、目覚ましのボタンを押す。


 大きく伸びをして眠気を飛ばす。


 朝食の準備をして、夕咲を起こすために部屋の前へ。


「夕咲、起きてる?」


「ふぁ〜、はい。すぐ出ますので、少々お待ちください」


 少しして、寝癖だらけの夕咲が出てきた。


「おはようございます。や……、夕さん」


「! お、おはよう。……夜奈」


「えへへ、まだ、照れますね」


「まだ流石にね。ご飯食べたら洗面所来て。寝癖直すから」


「はい。わかりました」

 相変わらず朝に弱い夕咲には少してこずったが、無事準備を終え、学校に向かう。


 遠足が終わり、もう6月に入りかけ。


 当たり前だが、とても暑い。


 しかし、これからまだまだ暑くなる予報なので、それに関してはとても気が重い。


「夜奈、もう少し早くいく? 暑いし」


「そうですね。もう溶けそうなので、そうしましょうか」


 そうして急ごうと思った矢先、それは無理になった。


「夜凪ー、夕咲ちゃーん! おっはよ〜」


「おはよう、秋川。すぐに夕咲にくっつくな」


「え〜、何? 焼いてんの〜?」


「ハル。カバン持ってて。一発叩きたい」


「ダメだって。ほら、由奈も離れとけって」


「でも〜、夕咲っちゃんなんも言ってないし〜」


「すみません。暑いのは嫌なので、離れていただきたいです」


「な、……夕咲ちゃんに言われちゃしょうがない」


 驚いた。


 夜奈が自発的に意見を言うなんて。


 この前の遠足で少しは打ち解けられたと言うことだろうか。


 まあ、それは全然いいことだ。


 夜奈の成長に、思わず泣きそうになったくらいだ。


「最初から離れとけよ。暑いんだから」


「まあまあ。あ、そういえば今日はテスト返しだね〜」


「あ、話変えた」


「まあまあ、本当のことじゃん。みんなは目標どれくらいなん?」


「俺は、最低でも7割超えてたらいいかな。それで評定Aだし」


「俺はもちろん、赤点回避だ」


「潤には聞いてない。夕咲ちゃんは?」


「私は、大体6割くらいでしょうか?」


「まあ、それでも勉強2週間くらいしかしてないならすごいけど」


「確かに。まあ、大丈夫じゃない? 夕咲ちゃんなら」


「そうだね。夕咲なら大丈夫そうだよ」


 うちの学校はテストが明けた次の登校日が、テスト返却日となり、全てのテストが1日で帰ってくる。


 その日は授業もないので楽といえば楽だが、精神的にはキツくなることもありそうだ。


 特にハルみたいな人だと。


 駄弁っているまに学校につき、席に座る。


 SHRが終わり1つ1つテストが返される。


 夜奈の点数は帰ってから見せると言うので、俺は知らない。


 今はテスト最終日と同じく、打ち上げとして俺のバイト先のファミレスに来ている。


「なんでここなんだ」


「だって、店長優しいし、混んでるわけじゃないから、騒ぎやすいじゃん」


「混んでない、は失礼だろ」


「あはは、まあ事実だからね」


「あ、店長」


「ま、いいや。みんな、注文は?」


「俺はハンバーグでお願いします」


「私と潤はこの、洋風プレートってやつで」


「夕咲はどうする?」


「私もハンバーグでお願いします」


「うん、わかった。ちょっと待ってね」


 店長が鼻歌を歌いながら厨房に消えていく。


 いつも昼間は暇しているらしいので、嬉しいのだろうか。


「で、みんなテストはどうだった? 私は9割が2つと、8割が4つ、後は7割でした〜。どやっ」


「さすがで。けど、俺も大体は一緒かな。8割が3つだったけど」


「ちなみに9割はどれとどれ? 私は現国と論表」


「俺は数学と化学だった」


「まじ⁉︎ 理系じゃん」


「いやいや、夕咲のおかげだよ」


「え? 私ですか?」


「うん。教えるので結構身についた感あるし」


「そうですか。……よかったです」


「夕咲ちゃんは?」


「申し訳ありませんが、私はまだ秘密です。夜凪さんに初めに言いたいので」


「そっかー。ま、それなら仕方ない。じゃ、問題の春谷君」


「う、俺は……大体が5割」


「赤点は回避したの?」


「古典が死んだ」


「「はぁぁ」」


「しゃーないだろ! むずいんだから!」


「秋川にあんな教えてもらってたのに」


「あんなに教えたのに」


「すんません」


「ま、赤点の補修は終わるまで待っててあげるから」


「ありがど〜。由奈〜」


 ハルは残念だったが、まあ、いい結果と言っていいのではないだろうか。


 夜奈の点数はまだわからないが、心配するようなことはないだろう。


 もし、万が一赤点になってしまったとしても、それ相応の理由が夜奈にはある。


 楽しい打ち上げは終わり、それぞれが帰路についた。


「夜奈、まだダメなの?」


「はい。家に帰ってからでお願いします」


「なんでそんなに家にこだわるんだ?」


「理由は時期にわかりますから」


 本当にどうして家にこだわるのか。


 先ほどは俺に最初に言いたいからと言っていたが、今言わないと言うことは別の理由からだ。


 もしかして、悪い点数を取ってしまって言いにくくなっているのだろうか。


「夜奈、俺は点数別に気にしないけど」


「えっと……急ですね。安心してください。そこまで悪い点は取っていないと思っていますから」


「そ、そう。じゃあ本当になんで家?」


「ほら、もう家ですから。あとちょっとの辛抱です」


「ま、悪い点とってないならいっか」


 家の鍵を開け、中に入る。


 外はまだ明るいので、ライトなしでも部屋は明るい。


 手だけ洗ってさっさとリビングの椅子に座る。


「ふう、疲れた。早速だけど、夜奈、いいかな?」


「はい。お待たせしてしまってすみません」


「大丈夫だから、お気になさらずに」


 夜奈がカバンからテストの答案と採点後の用紙を取り出して、机に並べる。


「えっと、どれどれ? って、これは……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る