仲直り、そしてテストへ 6〜7話
6話
「はぁー、疲れたー」
二限目のテストが終わり、ハルが大きく息を漏らす。
「まだ初日だけど?」
「嫌なこと言うなよー、夜凪ー」
「夜凪の言うとおりだよ、潤。帰って明日の勉強しようねー」
「うっ、味方がいねーよー」
「頑張れー、ハル」
秋川に引きずられながら教室を出ていくハルに手を振り、俺も帰る準備をする。
夕咲はもう準備を済ましているので、あまり待たせるのは申し訳ない。
「お待たせ、夕咲。帰ろっか」
「はい」
靴を履き替え、門を出る。
すっかり通るのに抵抗のなくなった商店街を経由して家に帰る。
「どうだった? テストは」
「おそらく問題はないと思います」
「そっか、一安心だ」
「夜凪さんはどうでしたか?」
「俺もおんなじだよ。問題ないと思う」
「そうですか。よかったです」
「心配してくれてたの?」
「ずっと教えてもらっていたので、勉強できていたのかなと思いまして」
「そっか、ありがとう。でも大丈夫だよ。言ったでしょ、記憶力には自信があるって」
「そうでしたね。すみません」
「謝らなくていいって」
今まではあまり弾まなかった会話もそこそこ続くようになってきた。
これもあの一件のおかげなのかもしれない。
結果オーライというやつか。
家に着いて少しいまったりしようと思ったが、
「夜凪さん、教えてもらいたいところがあるのですが……」
どうやら、休むのはもう少し先になりそうだ。
「わかった。けどひと段落したら昼ごはんね」
「わかりました。では、お願いします」
確かにそう言ったはずなのだが、結局夕咲が満足するまでは二時間以上かかり、昼ごはんを食べることはなかった。
夕咲の勉強相手からやっとの事で解放された俺は自分の部屋に戻ってバイトの時間まで仮眠をとることにした。
四時間ほど寝ただろうか。
すでに日は傾き始めている。
(しまった! 夕咲をほったらかしだ)
一応伝えてはいたが、こんなに寝るつもりはなかった。
「ごめん夕咲、寝過ぎた……って」
部屋を出て、リビングに行くと、
すぅー、……すぅー、
夕咲はリビングのソファーで横になっていた。
昨日も遅くまで勉強していたし、疲労はかなり溜まっていたはずだ。
現に俺もそのせいで寝過ぎたのだから。
「夕咲、そろそろバイトだから起きて」
だが、夕咲は声をかけてもなかなか起きない。
「夕咲ー」
仕方がないので少し体を揺らしてみる。
「う、う〜ん? ……! や、夜凪さん! すみません」
「何に対しての謝罪? まあいいけど。そろそろバイトだから準備して」
「は、はい。少し待っていてください」
ソファーから飛び起きた夕咲はその後、一分もせずに準備を終わらせ、二人でバイトに向かう。
テスト中くらい休もうかとも考えたが、今月は一つお願いをしているので他に迷惑のかかることはしたくない。
まったり行きたかったが、思ってた以上に時間がなかったので、小走りで向かうことになった。
(そういえば、最近走ってないな)
何度か走ろうと思ったが、テスト前ということもあってしばらくできていない。
運動不足で太ったり、不健康になることは避けたい。
特に太るのは嫌だ。
「店長、お疲れ様です」
「あ、夜凪君。テストはどうだった?」
「別に、普通ですよ」
「夕咲君は?」
「私も同じです」
「そうか、なら明日からも頑張ってね」
「「はい」」
店長への挨拶を終え、バイトのエプロンを着る。
相変わらず客足は少ないので、入ってすぐは休憩時間だ。
「今日でメニューの作り方教えるのは終われそうかな」
仕事の合間にコツコツ教えていた(教える合間に仕事、かもしれないが)甲斐あって全四十八品あるうちの店のメニューの作り方教室は今日でお終いだ。
夕咲は本当に呑み込みが早く、料理の腕は俺に匹敵する、もしかしたら、それ以上になったかもしれない。
「いやー、ほんと。即戦力だね」
「あ、店長。そうですね、俺も楽させてもらってます」
「そんな、夜凪さんのおかげです」
「謙遜しちゃって。そろそろお客さん来る時間だから、よろしくね。二人とも」
「はい」
「頑張ります」
店長の言う通り、それから五分ほどしてちらほらとお客さんがやってくる。
今日はいつもより二人ほど少なかったため、仕事はさらに楽になった。
「うん、今日はこんなもんかな。材料いつもより余ってたから、はいこれ、まかない」
「あ、ありがとうございます。助かります」
「夕咲君、明後日にお給料渡すから楽しみにしといて」
「本当ですか⁉︎ ありがとうございます!」
初めての給料ということで夕咲も嬉しそうだ。
夕咲が着替えるために休憩所に行ったのを見計らい、俺は店長に声をかける。
「すみません。わがまま聞いてもらっちゃって」
「いいんだよ。遠足楽しんできなよ」
実は、前のバイトの時に俺は店長に一つお願いをしていた。
「給料の前払いくらい、いつでもやってあげるよ」
そう、お願いというのは給料の前払い。
今月は夕咲の教科書代やベットの購入などがあって、財布の中はほぼ空っぽ状態だ。
だが、テスト明けの金曜日には遠足が待っている。
銀行に貯金はしてあるが、もしもの時のことを考えてあまり崩したくはない。
それでも、金銭的な面で夕咲に気を遣わせたくはない。
ということで、店長に頼んで給料を前払いしてもらった。
その代わり、来月の給料までは少し長くなってしまうが、そのぶん給料は増えるのでこちらとしてはデメリットはほぼない。
(この人に恩、返しきれるかなぁ)
改めて店長にお礼を言い、俺も夕咲の後を追う。
「夜凪さん、何かありましたか?」
「いや、店長と雑談」
「そうですか。夜凪さん、この後なんですけど、夕飯を食べ終わったら……その」
「勉強、でしょ」
「! はい。よくわかりましたね」
「なんとなくそんな気がしただけ」
二人で家に帰り店長からもらったまかないの弁当を食べ終わると、夕咲と明日のテストの最終確認。
その後お風呂を洗って、今は風呂が沸くまでの休憩時間。
「あ、そうだ。夕咲、一緒にランニングやらない?」
「ランニング、ですか?」
「うん。運動不足は健康に良くないし、どうかな?」
「テスト明けからなら大丈夫です。ですが、私は体力はありませんよ?」
「いいよ、だからランニングするんだし」
「そうですか。ではお願いします」
夕咲の了承も得たことだし、これで俺たちの運動不足は解決できそうだ。
「あの……夜凪さん。テストが終わって、遠足も終わったらお話があります」
「? まあ、うん、わかった」
「本当ですか! ありがとうございます。では、私はお風呂に入ってきます」
「うん。行ってらっしゃい」
夕咲は軽くお辞儀をして洗面所に消えていく。
話というものに心当たりはないが、あらたまった様子だったので何かしら大事な話なのだろうが
(なんかあったのかな?)
そう言った後の夕咲の表情はかすかに笑っていたように見えたので、心配はいらないだろう。
詳細が気になるが、話があると言った時に言わなかったということは、今は言い難いことなのかもしれない。
ので、詳しいことはその日になってからのお楽しみということにしておこう。
7話
それから三日間、警戒して挑んだテストだったが、正直、拍子抜けといった感じだった。
どうやら、人に教えることで理解が深まるというの本当らしい。
実際、夕咲がうちに来る前と比べて理解度が高い。
夕咲に聞いても問題はなかったらしい。
これで心置きなく遠足を楽しめる。
テスト終わりのHRで明日の遠足についての説明を受け、今はお馴染みの四人組で打ち上げをしている。
「すみません、店長。うるさかったらすぐ出ていきますから」
「いや、いいよ。お客さんが増えるんだから、こっちとしてもありがたいよ」
打ち上げの会場は何故か俺のバイト先であるファミレス。
売り上げ貢献にはなるので悪いことではない。
だが、
「秋川、なんでここにした?」
「なんでって、夜凪のバイト先を見てみたかったから」
「俺、お前にバイト先教えてないんだけど」
「夕咲ちゃんから聞いた」
(夕咲かー)
「すみません。言わないほうがよかったですか?」
「いや、問題は特にないけど……やっぱ、なんでもない」
「?」
「まあ、いいじゃん、夕咲ちゃん。夜凪もなんでもないっていってるし」
これからは、秘密にしておいて欲しいことはしっかり伝えておく必要がありそうだ。
四人でそれぞれハンバーグとドリンクを頼み、注文が揃ったところで打ち上げがスタートする。
「じゃあ、みんなー! かんぱーい!」
「「かんぱーい!」」
「か、かんぱーい?」
夕咲は少し戸惑い気味だったが、良いスタートになった。
「早速だけど、みんなテストはどうだったの?」
「俺は普通」
「私もです」
「ハルはどうだった?」
「ふっふっふっ……赤点は回避できそうだぜ」
「あんなに教えたのにー」
「あの日以外も教えてたの?」
「うん。あの週は全部使って」
「それなのに、赤点ギリ回避かぁ」
「まだ、『ギリ』とは決まってないだろ」
ハルのツッコミで笑いが起こる。
夕咲も始めは戸惑っていたところもあったが、時間が経つにつれてそれはなくなり、少しは笑うようになった。
あたりが暗くなってきたところでそろそろお開きにしようという流れになった。
今が六時で、始まったのが確か一時くらいだったはず。
なので、実に五時間ほど店に居座っていたことになる。
片付けを少し手伝い、俺たちは店を出る。
ハル、秋川は別方向なので帰りは夕咲と二人だ。
「夕咲、テスト終わりのご褒美として何か買ってかない?」
「はい。賛成です」
いつものコンビニでいつものプリンと今日は特別にパックのミルクティーを買った。
もう少し贅沢しようと思えばできたのだが、遠足のためにできるだけ多く手持ちは残しておきたい。
家に帰り、リビングのテーブルに向かい合って座る。
「よし、改めてテストお疲れ様。乾杯」
俺はコップに注いだミルクティーを夕咲の前に差し出す。
「乾杯、これであっているでしょうか?」
夕咲も俺と同じようにコップを掲げ、二つのコップの間でカチン、と音が鳴る。
「うん。あってるよ」
ミルクティーを一口飲み、プリンの蓋を開ける。
夕咲はその間にすでに一口目を口に運んでおり、幸せそうな笑顔を浮かべている。
(かわいい……、!)
またこんなことを考えてしまった。
夕咲と会ってからというものこのよくわからない感情は定期的に襲ってくる。
いや、この感情の詳細については、薄々気がついている。
が、なかなか伝える決心がつかない。そういえば、夕咲に遠足の後、時間を作って欲しいと言われていた。
あのタイミングなら、いいかもしれない。
あと必要なのはこの思いを言葉にする勇気だけだ。
(あ、そうだ)
俺は夕咲がお風呂に入るとスマホを取り出しグループチャットを開いた。
夜凪:『ハル、秋川、ひとつお願いがある』
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