仲直り、そしてテストへ 4〜5話
4話
「夕咲……」
「い、いえ、これはあくびで……」
夕咲はこぼれ落ちる涙を必死に拭っている。
「嘘下手すぎだよ。……一回、正直に俺の考えを話しとこうと思って」
「……」
夕咲の表情が曇っていく。
(落ち着け、熱くならないように)
自分に言い聞かせながら十分に間をとって話し始める。
「実は俺、昼休みの会話、聞いてたんだ」
「!」
「ハルの電話を使って。あ、俺がお願いしたことで、2人は協力してくれただけだから……」
だが、夕咲は黙ったままだ。
「……俺はさ、気を遣ってなんかないよ。まあ、言っても信じてもらえないかもだけど」
「……」
「俺、結構ショックだったんだよね。まだ、あんまり信用されてないんだなって思って」
「! そんなことは……」
夕咲は少し黙る。
「……そんなことないです。とは、正直言えません。ですが、そうしたいとは思っています」
「どういうこと?」
「信じたいとは思っているのですが、どうしても怖くって」
いつの間にか、夕咲の目からは再び、涙がこぼれ落ちている。
「昔のことになるので、詳しいことは話せませんが、いつからか人と関わるのが怖くなって……」
だから信用したくても心のどこかでそれに反発してしまう。
きっとそういうことだろう。
これはそう簡単に解決できる問題ではない。
なぜなら、俺も今でこそ深刻ではないが、少し前まで同じ問題を抱えていたのだから。
「その気持ち、ちょっとはわかるよ」
「……本当ですか?」
「うん。俺も昔に色々あって、人と関わりたくないっていう時期があったんだ。まだ完全になくなったわけじゃないけど」
「……そうですか」
「無理に信用しろとは言わないよ。けど、人と話してたら、いつかその感覚は無くなるよ。俺もそうだったし」
「……」
「ええと、なんの話だっけ?」
会話が脱線したせいで本題を忘れかけていた。
「あ、で、俺の考えなんだけど、俺は夕咲と仲直り? をしたいと思ってる。今は無理でもいつか信用してもらえるように頑張るから」
この俺の少し恥ずかしいかもしれない発言で、夕咲も決心をつけてくれたのか、しっかりと俺と目を合わせて話してくれた。
「私も、そうしたいです。この2日間ほど、避けるようなことをしてしまって、すみませんでした」
「うん、俺もごめん。夕咲の考え全然聞かなくて、話しかけるのにも丸1日もかかちゃったし」
「いえ、嬉しかったです。今日でかなり夜凪さんを信じれるようになった気がします」
「本当? ならよかった」
「はい。あ、あと……」
「ん? 何かあるの?」
「はい。これから、夜凪さんを頼ることは増えると思います。だから先に謝っておこうかと」
「はぁ、そんなことしなくていいよ」
「ですが……」
「いいって。だって俺たち友達、でしょ?」
「! う、うぅ〜」
「え⁉︎ なんで泣くの⁉︎」
それから夕咲が落ち着くまでは30分ほどかかった。
正直、会話だけで解決できたのならもっと早くからやっておけばよかったと思った。
まあ、丸くおさまったのだから良しとしよう。
夕咲からの信頼度も上がったし、正直な気持ちをぶつけてスッキリもした。
「夕咲、テストは来週だし、追い込みかけていこっか」
「う、お手柔らかにお願いします」
それから俺たちは向かい合って夕飯を食べ、しっかりと目を見て話し合った。
夕咲は朝食、昼食を食べていなかったので、追加でコンビニに買いに行く羽目になった。
だが、会話も少ないができるようになったし、しっかり笑うようにもなってくれた。
仲直り記念として買ったプリンを食べている時の夕咲の笑顔は間違いなく今までで一番輝いていた。
5話
仲直りが成功すると、長かった昨日が嘘のように猛スピードで日々が過ぎていった。
そしてついにテスト初日を迎えた。
土曜日、日曜日と家にこもって勉強詰めだったので結構疲労が溜まっている。
初日の教科は歴史に英語。
どちらも暗記系なので個人的には重くない。
夕咲も家を出る前に確認した感じおそらく問題はない。
やはり、山場は2日目の化学と最終日の数学だ。
特に数学はなんとか一周できたというだけで得意と苦手の判別や応用問題の対策はできていない。
最終日の前の日にも時間はあるが、それを使っても全ての対策ができるわけではない。
「夕咲、大事なのは焦らないことだから、わかんなかったら飛ばしていいから」
今は家を出てから15分くらいのところ。
夕咲の顔は一目で緊張しているとわかるくらいに強張っている。
「はい。ありがとうございます」
「夕咲、緊張してる?」
「……はい、とても」
「うん、正直でよろしい。でもまあ、この1週間頑張ってきたんだし、心配いらないよ」
「……ありがとうございます。あの……できればでいいんですが、頭を撫でていただけませんか?」
「え⁉︎ あ、いや、いいけど……なんで?」
「夜凪さんに撫でてもらえると、なんとなく落ち着く気がしますので」
「そ、そう? まあ、夕咲がそう言うなら」
俺は慎重に夕咲の頭に手を伸ばし、1分ほど優しく撫で続ける。
だが、そこでいやーな声が聞こえてきた。
「やーなーぎ〜、なーにやってんの〜?」
「やっぱお前らただの友達じゃねーだろ」
恐る恐る声の方向に目をやると、ハルと秋川がいやーな視線を送ってきている。
「仲直りできたんならよかったけど、まさかそこまでいくなんて。夜凪も侮れないねー」
「なんて告ったんだよ?」
「勘違いはやめて。ただ仲直りしただけだって」
顔がすごく熱い。
燃えそうなくらいに。
これからは公共の場でやることは控えた方が良さそうだ。
「本当に〜?」
「夕咲、早く行こう」
「待てって、冗談だよ、冗談」
「あれ〜二2とも顔赤くな〜い?」
「ハル、あいつ叩いてもいい?」
「ダメだ、ほら急がないと遅刻するぞ」
そろそろお馴染みになってきた4人が揃い、学校へと向かう。
途中途中で秋川がからかってきたがなるべく反応せずにやり過ごす。
もう、脳に異常をきたすのではないかというくらい顔の温度が上昇している。
秋川のからかいからなんとか逃げ切り教室に入る。
喋り過ぎたせいで遅刻ギリギリだったがなんとか間に合った。
SHRでの連絡事項を聞き終え、テストの準備をする。
俺はそこまで緊張することはないが、どうやら夕咲はそうはいかないらしい。
廊下に荷物を出してからテストの範囲のプリントを怖い顔で睨みつけている。
(焦るなって言っといたのに、仕方ない)
着席を促すチャイムがなり、廊下で最後の追い込みをかけていた人たちが教室に戻っていく。
「夕咲」
「は、はい。どうかしましたか?」
俺は廊下に他の人がいなくなったのを確認して夕咲の頭をポンポンと撫でた。
「緊張はとれた?」
「! はい、ありがとうございます」
そう言って夕咲は普段通りの小さな笑顔を見せる。
これなら心配しなくても大丈夫そうだ。
初めて見る先生から問題用紙と解答用紙が配られ、チャイムがなるのを静かに待つ。
名簿順に座っても、ハルと夕咲は近くの席なのであまり普段と変わらない精神状態で臨むことができる。
校内にテスト開始を知らせるチャイムが鳴り響き、全員が一斉に問題用紙を開ける。
俺は一度、深呼吸を挟んでからペンを持ち、周りよりも数秒遅れて問題用紙を開いた。
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