本心 11話
11話
翌朝、目を覚まし、部屋から出ると、それと同タイミングで夕咲も部屋から出てきた。
「あ……おはよう。夕咲」
俺が気にしていないと言った以上、なるべくいつも通りに振る舞う必要がある。
「……おはようございます」
だが、夕咲は明らかに昨日のことを気にしている。
声のトーンも暗いし、目線は斜め下を向いている。
「朝ごはん作るから、座って待ってて」
「わかりました」
いつも通り、食パンを焼き、マーガリンを塗る。
それとジャム、牛乳を机に置く。
俺は手を合わせて食べ始めるが、夕咲はなかなか食べ始めない。
目元にはうっすらとクマができている。
昨日は遅くまで、色々と考えてしまったのだろう。
「夕咲、食べないの?」
「……すみません。今はお腹が空いていないので」
「え? だ、大丈夫?」
昨日の夜に食べた量はいつも通り、なんならそれより少し少ないくらいだったはずだが。
そんなに思い詰めることでもない気がするのだが。
夕咲の考えを理解するのはやはり難しい。
「ご心配なく。学校の準備をしてきます。せっかく作っていただいたのに、本当にすみません」
夕咲は朝食には手をつけず、自分の部屋に戻ってしまった。
(結構深刻だな)
気まずいのはわかるが、今日の昼まで何も食べないのは心配だ。
夕咲を待たせるのは悪いので俺は食パンを口に詰め込み牛乳で流し込む。
だが、歯磨きをしようと洗面所に向かうと、
「あれ? 夕咲、もう行くの?」
「……はい。早めに行って勉強しようと思いまして」
「……、わかった。じゃあ気をつけて」
「はい。いってきます」
「うん。いってらっしゃい」
(完全に避けられてるよな、これ)
昨日の夜に何かしら声をかけていればこうはならなかったのだろうか。
考えても仕方ないので、俺も急いで準備を終わらせて家を出る。
夕咲が出発してから7分ほど経っているので早足で家を出発した夕咲に追いつくのは諦めた。
久々に1人で登校すると今まで感じることはなかった孤独感に苛まれる。
1人ぼっちでため息をついていると後ろから明るい声が聞こえてきた。
「おっはよ〜……ってあれ? 夕咲ちゃんは?」
声の主はもちろん秋川。
ハルも一緒にいる。
「それが、昨日の夜に色々あって……」
「喧嘩でもしたのか?」
「いや、そういうわけじゃない、と思うんだけど。実はさ……」
****
「へー、そんなことが」
「けど、それだけでそんなに避けられることある?」
「俺も気にしないでいいって言ったんだけど、全く変化なしで……はぁ」
「マジで困ってるみたいだな」
「当たり前だよ」
夕咲がこのままの状態なら、日常生活にも支障をきたすだろう。
もし、出ていくなんて言い出したら耐えられない。
「なら、俺たちが仲直りすんの手伝ってやるよ。な? 由奈」
「だねー。私も夕咲ちゃんが何をそんなに気にしてるのか知りたいし」
「ありがとう。2人とも。やっぱり、持つべきものは優しい友、だよ」
「調子いいな、お前」
「あはは。で、具体的にどうする?」
「うーん。とりあえず私から色々聞いてみる。女の子同士だし、夕咲ちゃんも話しやすいかも」
「確かに。じゃあ頼む」
「りょーかーい。じゃあ、昼休みに夕咲ちゃん借りるね」
「うん。わかった」
話している間に学校に着き、教室に入る。
そこには数人のクラスメイトと、問題集を睨みつけている夕咲がいた。
「できるだけ普段通りに接すること。ギリギリまでバレたくないから」
「わかってるって。おっはよ〜、夕咲ちゃん」
俺が言ったのだが、どうしたら、あそこまでいつも通りにできるのだろうか。
もしも、あれが演技なのだとしたら恐ろしい人間だ。
「夕咲、おはよう」
「おはようございます」
挨拶を返してくれたのは嬉しいが、やはり目は合わせてくれない。
「これは結構だな」
「でしょ。……はぁ」
授業が始まってもこの日は質問をしてくるわけではなく、ただ黙々と黒板に書かれたことをノートにメモしている。
ここまで話しかけられないと寂しさみたいなものを感じる。
1から4限目までその調子だったので、
「はぁーーーーーー」
昼休み開始のチャイムと同時に今日、いや、人生で最大のため息をついた。
すでに夕咲と秋川は教室を出ており、おそらくため息のは聞こえていないはずだ。
秋川が夕咲とどんな会話をするかはわからない。
とにかく良い方向に進むことを願う。
それと同時に、何もできない自分を情けなく思う。
自分のできることが何かないかと考えていると、気づけば俺は屋上、夕咲と秋川の話し合いの舞台。
その扉の前に立っていた。
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