第8話
案内されたのは横に広い木造の家だった。入口の布をめくって中に入ったのだが、その家は奥にも充分広かった。
ガランとしていて、人気のない場所ではあったけど、自然の温もりが充満していた。
そんな建物の中央に腰をおろし、得も知れぬ感動に浸っていると、男性が入室してきた。
「失礼するよ」
「あら、ハリー。長は?」
「世直しの旅とかなんとか理由をつけて、外に出てるよ」
「また? よくそれで長なんて務まるわね」
ハリーと呼ばれた男性は、ベリーから見れば父親くらいの年齢であろうかと思われたが、かっこいい人ねぇと、思えるにふさわしい外見をしていた。
均整の取れた身体と精悍な顔つき。
「お父様と大違いね」
誰にも聞こえないようにつぶやいたはずだが、ハリーと目があった。彼は一人で頷き、ニッコリ笑って、向かいに座った。
「ようこそ、レディ。ようこそ、少年」
挨拶を交わすと「少しゆっくりと休まれた方がいい」といわれ、この場所で横になることを勧められた。
堅い床の上はやだなぁと思っていたが、この部屋の木は柔らかく感じた。どう見ても木なんだけれど、暖かさまである。気持ちが落ち着いて、身体の硬直が取れて行く。
さらに暖かい飲み物を出され、ベリーは、元気さを取り戻した。同時に、疲れていたことを知った。
頃合いを見計らって、横になったままでいいと手で示しながらハリーが問う。
「星の一族について、どこまで知っていますか?」
「噂では知っていた。特筆すべき能力を持った人種、そして、リザノイドと呼ばれる人外がいると。逢った事はない」
「わたしは、何も知りません」
二人の熟知度はかなり違った。
「一から説明をした方がいいようですね。それに、コアースを案内したいですし、紹介したいものもある。泊まって行かれるといい」
やはり一人で頷き、ミラに用意を指示した。ミラも心得ているようで、すぐに部屋を出て行った。キースも居心地が悪いのか、咳払いをして後に続いた。
ハリーは、二人に手を差し出した。
「では、まず。宿泊費をいただけますか? 食事は込みで」
「え? お金を取るの?」
「宿屋に泊るにしても、お金はかかるのが普通でしょう。最近、就職難でリザノイドも溢れていますから」
リザノイドという単語が何を示しているのか、それらが、どんなところに就職しているのかもわからないけど、宿泊費は当たり前だなと思って、素直に支払った。
ランディも払っていたが、顔は渋かった。
「私からは、リザノイドについてお話します。レディはあとでミラにも話を聞いておくといいでしょう。少年はそこそこの知識があるようですしね」
頷いたけれど、知識という言葉を出されると、ベリーは勉強を真面目にしなかったことばかり悔やむことになる。
「この世界は一つの丸く碧い星。
私たちはみな、その中で暮らしている。どの国も、どの人も、どの生き物も、どの植物も、みな同じ大地の上にいる。
星の一族は、この世界が出来た時から息づいている一族。私たちは、その末裔。人間もいるし、少年の言う人外、すなわちリザノイドもいる。
リザノイドは、人間よりちょっと長生きで、ちょっと能力的に優れている。自分で言うのもなんだが……」
ハリーは頭を掻いた。
「えっ! ハリーさんが、そのリザノイドさん?」
「そうです。そのリザノイドです」
ランディも驚いたようで、声もなく、まじまじとハリーを見ていた。
「……外の世界って、驚く事ばかりだわ。だって、人外って人ではないってことでしょう? ハリーさんは人に見えるけど……」
ベリーは、それほど使っていなかった脳が、旅に出てからフル回転していると思った。だが、処理しきれないくらいの出来事が続き、今は頭を抱えていた。
「悩むような事ではないですよ。基本は人間と同じなのですから。
違いは、普通の人間の約二倍生きますから、外見はわりと自由に年を取れること。知力、体力などの能力が、全てにおいて上回っているということ。圧倒的に人数が少ないこと。あとは、生まれる場所ですかね。お見せしましょう。紹介したいものです。少し歩きますが、大丈夫ですか?」
ベリーの足は痛かったけど、この場所を見たいという好奇心のほうが強かった。
「大丈夫です!」
張り切って言った。
ハリーが部屋から出るように促した。
青々とした樹々の中を、進んで行く。同じような風景が続き、どちらへ向かっているのか、そもそも進んでいるのか、まったくわからなかった。木洩れ日射す中、ただ、ハリーの後を歩くだけ。
前方では、ランディがハリーに何やら話しかけている。
「リザノイドが背後にいるという国の話はよく聞く。だが、姿を見たことは一度もなかった。現実にいるとは……」
「われらの存在は噂でしかないものですよ」
ランディは考え込んだり、さらに質問したりしていたが、ベリーには聞き耳を立てるほどの元気が残っていなかった。
「さっき復活したはずの元気はどこへ……」
さすがに疲れたなぁと思って、「ひと休みしたいんだけど」そう言おうとして言葉を飲み込んだ。
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