第38話 お風呂での勉強
裸姿で上品に振る舞う幼女。二階堂葵。
「ようこそ、お風呂においで下さいました」
なんでそんな振る舞いをするのだろうか。お風呂に入ってくる前は、反抗的な雰囲気があると思ったけれども、本当はいい子なのかもしれない。
「それじゃあお姉様! まずは身体でも洗いましょう!」
舞白は、葵のことを見ていない。まるっきりシカトしているようだった。
「いえいえ、まずは私が洗って差し上げますわ!」
彩芽もまるっきり葵の話を聞いていない。
せっかくカーテシーまでさせたというのに。葵への冷遇さに、少し可哀想に思えてくるな……。
私がされたわけだから、私から声をかければいいのか。
「葵さんって言うんですか? よろしくお願いしますわ。私は白川千鶴と言います。よろしくお願いします」
私も葵に見習って、裸姿であるもののカーテシーのポーズをとる。
本当にスカートがあるように、しっかりとふわりと見せるように優しい手つきで体勢を制止させる。意外と裸でもできるものだな。
そう思っていたのも、数秒だけ。
裸でカーテシーをするというのは、意外と恥ずかしいものだということがわかってきた。なんの反応も無いと、自分はなにをしているのだろうと虚無感が湧いてくるし、そもそも自らの裸をさらけ出しているわけだし……。
よく葵は恥ずかしげもなく、初対面の私のこんなことができたものだな。感心しちゃうよ。
葵はというと、目を見開いて私の姿をマジマジと見ていた。そんなに驚くことはないと思うのだけども。葵と同じことをしているわけだし。むしろ先にやったのは葵なんだけれども?
「お姉様……。とても、美しい……」
私のカーテシーがよほど良かったのか、褒められた気がする。私のお嬢様度合いも捨てたもんじゃないな。伊達に一年間、お嬢様をやってきたわけじゃないですわよ。ふふふ。
他の二人には目もくれずに葵の方だけを向いていると、二人はなにやら悔しそうに葵を見ていているようだった。
「おい、新入り。なんでお姉様の目線を独り占めしているんだぁー? おいっ!!」
「妹だからって、やっていいことと悪いことがあるんですよ? そこのところをわきまえてくれないと、困りますわよ?!」
なんだか、険悪なムードが浴室に漂いだした。
ミストサウナがあるんじゃないかというくらい、熱い気がする。
やっぱり、四人で狭い浴室に入るものじゃないと思うな、こりゃ……。
けどけど、大勢で勉強をしに来たんだ、私たちは。だから早くお勉強を始めたいし、そもそももう少し和やかにやりたいと思うんだよね。
たお風呂で遊んでいるだけじゃ、昨日の二の舞になってしまうから。
挨拶も済ませたので、私から号令をかけることにした。
「それじゃあ、みんなでお勉強をしましょう!う!」
「えっ? お勉強するんですの……? ここで……?」
葵は再度驚いてこちらを見返してくる。気でもおかしくなったのかというような、言いぶりだ。
「も、もちろんだろっ! お風呂で勉強するのは、成績上位者にとっての常識! お前、葵って言ったか? 常識外れも良いところだぞっ!」
「そうですわ! 私は毎日しているけれども、葵さんはまだそれができていないのですわね!」
二人とも慌てている気がするけれども、気のせいかな?
まぁいいか。少しだけ険悪なムードが和らいだ気がするし。早速勉強をしたいと思うね!
「あれ、けど……、そういえば、お風呂で勉強するってどうするんでしたっけ……? 暗記科目と言われましても、そもそも私は覚えていないですし……」
「それでは、私が覚えているので、それを繰り返す方法で覚えていきましょうか?」
そう言いうのは、彩芽だ。
私の後ろから、身体に泡を付けてくる。
「昨日と同じことですけれども、手で洗っていきますわね。千鶴さんは、洗われながら、私のいうことを繰り返して……」
「はいっ!」
「ちっ!! ずるいぞ、彩芽!」
舞白が悔しがっているけど、舞白も勉強必要だったはずなんだけどな。
忘れているようだから、教えてあげなきゃなのかな。全く世話が焼けるんだから。
「舞白も勉強が必要でしょ? 葵と二人でお勉強しなよ! 同じ一学年同士、勉強が捗ると思うよ!」
「いや、私はお姉ちゃんとしたい……」
葵はワケがわからないという顔をしていたが、彩芽からもアイコンタクトを飛ばしてあげていた。きっと姉妹だと、それだけで 伝わるのだろう。
「お姉様、私はこの子の方を洗えばいいってことですね。わかりました。舞白さんって言いましたか? よろしくお願いします」
またまた、舞白に向かってカーテシーしている。
覚えたてのころって、何回でもやりたくなるって気持ちはわかるな。葵は純粋な子なんだろうな。
舞白も、怒った顔をしながらもカーテシーしている。お風呂場というところでも、これが常識らしい。
「……まぁ、勉強は必要か。じゃあ、じょうがないから、よろしく頼む」
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