第37話 葵のカーテシー

 美少女がお風呂から見えたと思ったら、すぐにお風呂の中に戻ってしまった。


 そりゃあ、見ず知らずの人が見えたら、すぐに隠れるだろう。ちょっと身体が見えちゃってたけど、不慮の事故だと思ってもらって。彼女が上がってくるのを待つ方が良いと思う。



「じゃあ、千鶴さん行きましょう?」


「お姉ちゃんは、私と入るんだよね?」



 先ほどの美少女がお風呂に入っているというのに、二人の態度はまったく変わらず、私の手を引っ張ってお風呂へ入れようとしてくる。さっきの美少女のこと、見てなかったのかな……?

 さすがに気付いていないと、まずいかと思って、おそるおそる聞いてみる。


「さっき、女の子がお風呂の中にいた気がするんだけれども?」


「だからなに? そんなのシカトだよ! 私のお姉ちゃんが入れれば良いのっ!」



 舞白は、私を引く手を離すと、自らの服を脱ぎだした。人の部屋だとしても躊躇なく脱ぐ姿は、男前と言ってもいいかもしれない。すぐさま脱ぎ終わって、下着も何もかも纏っていない状態となってしまった。


「私の準備完了だよっ!」


「舞白、そんなのお風呂に入りたいの?……じゃない、勉強がしたいの?」


 腕組をして私の方を向く舞白は、ゆっくりと首を捻っていた。ゆっくり瞬きをして、何のことか考えているようだった。



「舞白さん、遅くてよ?」


 気づかないうちに私の手を放していた彩芽も裸姿になっていた。舞白と同じく腕を組んで、お風呂場の前のドアにて待ち構えていた。こちらも、勉強する気満々らしい。

 けど、美少女が中にいるっていう……。



「いやいや、だから……。中に美少女がいたんですけど……?」


「私の妹だから、大丈夫! 葵は私の見方だから、無害よっ!」


 やっぱり、お風呂のこととなると彩芽はいつもと違う性格になるようだった。いつもは、お上品なのに。その彩芽に戻って欲しいんだけどな……。


 どちらにしても、みんな勉強の意欲があるっていうことなんだよね。私も、好成績グループの仲間入りしたいし。早く準備しちゃおうかな。


「早く脱いでくださいませ? 自分で脱がないなら、私が脱がせちゃいますわよ?」


「それなら、私が脱がせるーー!!」


「いや、自分で脱ぐから大丈夫!」



 私も二人を見習って一気に服を脱いでしまう。


 私の身体。

 見せて恥ずかしいものは、なにもない。そう、二人に比べたら何もない身体をさらけ出して、準備完了だ。

 私の脱ぎ姿を見ていた二人は、なんだか恥ずかしそうな声を上げて歓迎してくれた。


 これで、準備もできた。


 お風呂に入っていこうかと、彩芽がドアに手を掛けると中から声が聞こえて来た。


「ちょっと、アヤっち? お風呂場の前で何騒いでいるの? 友達をちょっと部屋の外にお願いできないかなー?」


 あらためて聞くと、声も可愛いかもしれない。幼い声だけれども、どこか低いハスキーボイスだ。

 アヤっちと呼ばれた彩芽は、ニコニコと笑いながらお風呂のドアのカギをサラッと解錠する。

 お風呂はきっちりした鍵になっておらず、回せば開くくらいの鍵なのだ。


「じゃあ、入るよー!」


「えぇぇえーーーーっ!! ちょっと、ダメだよ!! ダメダメーーーっっ!!」



 彩芽はズカズカとお風呂の中へと入っていく。それに続いて、舞白も入っていく。

 舞白にいたっては、初対面の子だと思うんだけれども、何にも気にせず入るんだね……。


 飛び級するには、そのくらいの気持ちが必要ってことだよね。それなら、私も思い切って入らないとだな。このために、来たんだから!



「アヤっち、誰よこの人達ーー!! 誰だれだれーーーーっ!!」


 お風呂の中で大声を出すものだから、声が響いて耳がキンキンする。お風呂の中で四人とも耳を抑えている。


 観察するわけじゃないけれども、葵と呼ばれた美少女はやっぱり舞白と同じくらいの大きさだ。

 なにが同じかって、身長も線の細さも。胸も。


 そして、やっぱり美少女だ。



 その葵に対して、彩芽は少し怒り気味に説教するように話す。


「葵は、少し静かにしてね? TPOって知ってる? 時と場所を考えなさいね?」



 葵は不思議そうに首を捻る。


「私、いきなり知らない人に裸見られて。それで、いきなり風呂に入り込まれてきて。それって、叫ぶのでは……?」


「葵、それは違うよ? お姉ちゃんのお友達がお風呂に来たんだから、きちんと出迎えなきゃ?」



 彩芽が真面目に葵を説教するものだから、葵も真顔になって受け入れているようだった。


「失礼いたしました、お二方……。よ、ようこそ、お風呂場へ。歓迎いたしますわ……」


 葵は恥ずかしそうに顔を背けながら、服は着ていないのにカーテシーをするそぶりを見せてくれた。

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