第36話 彩芽の妹

「それでは、行きましょうか? 千鶴さん!」


「ちょっ……、ちょっと待ってください!」



 放課後になると、彩芽はすぐに私の席へとやってきた。私の手を取ると、すぐに席を立ち上がらせて早く行こうと急かしてくる。勉強熱がアツすぎるよ。

 とりあえず、カバンを持つと彩芽に強引に引っ張られる。


「ちょっと、まだ舞白が来ていないんですけれども……?」


「いいのですっ!! 千鶴さんは、私と勉強をした方が為になりますわっ!」



「そうなのですか……? 大勢で勉強をした方が……」


「私と二人が良いのですっ!!」



 あまり見たことのない彩芽のムキになる姿。

 勉強のことになると、こんなに意思が強くなるっていうことなのか。そりゃあ、成績もいいわけだろうな……。

 私も、ここまで勉強にこだわるのが、良いのかもしれないな……。



「それじゃあ、アイツが来る前に……」



 彩芽の口から聞き慣れない言葉が聞こえたと思ったら、舞白が教室に飛び込んで来た。

 まさに、読んで字のごとく、走った勢いで飛んで入ってきた。そして、私の席の前で急ブレーキをかけた。



「お姉ちゃん!! お風呂だよ!!」


 勉強熱が入り過ぎているのか、もはや『勉強』というよりも、『お風呂』が先に口から出てきてしまっている。

 彩芽に負けず劣らず、舞白もすごい勢いで私のことを誘ってくる。私のことを両手を引っ張る舞白。



「……っち。舞白さん、早かったですわね?」


「んんー? あったり前じゃん! お姉ちゃんとお風呂に入りたい気持ち、負けてないからっ!」


「私の方こそ、負けてないからっ!!」



 なんだか二人とも、私の手を引っ張りながら言い合っている。


「えっと……? お風呂に入りたい気持ちって……? 二人とも、なにを言ってらっしゃるの……?」



「そのまんまの意味だよ! 早く行こうっ!!」


「舞白さん、私の部屋でお風呂なんですよ。あなたが『行こう』って誘うのは、違いましてよ?」


「んだと? じゃあ、私とお姉ちゃんの部屋でもいいだけど?」



 この二人、混ぜるな危険って感じだな……。

 お風呂だけに、こんなに熱くなってるのかな……? なんてね……。


 二人は、いがみ合いながら私を引っ張っていった。私は勉強が捗れば良いんだけれども、そうなる未来があまり見えないような気がするな……。



 ◇



「ようこそ! 私のお部屋へ!」


「お邪魔しますー」


 昨日も来た彩芽の部屋。


 昨日来たばかりだけれども、なんだか雰囲気が違っていた。少し綺麗に片付いているようだし、昨日は気付かなかっただけなのか、良い香りがするようだ。


「なんだか、素敵な香りですわね!」


「そうなのです! 勉強が捗るように、アロマを焚いてみていたのです! 今日はここで思いっきり勉強しましょうね!」


 彩芽はウキウキとはしゃいでいるようだった。やっぱり最近になってからか、あまり見たことのない彩芽の一面を見る気がするな。こんなに元気な子だったんだなぁ。


 私と彩芽の後ろから、ゆっくり部屋へと入ってくる舞白。辺りをキョロキョロ見回して、彩芽にを睨む。


「邪魔するんじゃねぇぞ、彩芽!」


「こちらのセリフですわ?」



 部屋の中は、甘いフローラルな香りに包まれているにも関わらず、なんだか殺伐とした空気を感じた。

 部屋について手を離してくれたと思った彩芽は、再び私の手を取って引っ張る。


「では、早速お風呂に入りましょうか? 千鶴さん?」


 もう片方の手を舞白が引っ張る。


「お姉ちゃん、今日は私が洗ってあげるからね!」



 もう、なにがなにやら……。



 そう思っていると、風呂のドアが開いた。


 出てきたのは、背の低い女の子だ。

 濡れた長い髪の毛を束ねて、頭の上に乗せているから身長がわかりにくいけれども、小さい女の子だ。

 線の細さや、腕の細さなど、見た目的には舞白と近いものがある。



「なんかうるさいんだけど、なんかあったの?」



 風呂の扉から上半身だけを覗かせてくる少女。バスタオルを巻かない、生まれたままの姿が見え隠れする。

 チラリと見えた胸囲としては、そこまで脅威を感じないほどだ。舞白よりも小さいくらいだと思う。……とはいえ、私よりは大きいんだろうけども。



「えっ……? やだーっ! 友達が来てるなら言ってよ! ちょっとーっ!」


 謎の少女は、そう言って風呂の扉を閉めてしまった。


 彼女は、誰なんだろうか。

 というか、いまから私たちお風呂に入るって言ってるのに、それなのにどうするのだろう?


 彩芽はこちらを向いてニコッと微笑むと、なにもなかったかのように私を引っ張る。


「さっきのは、私の妹。二階堂にかいどうあおいさんですわ。せっかくなので、一緒にお風呂に入りましょうか!」

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