第17話 お揃いのキーホルダー

「ねぇー。簡単でしょ?」

「うん。私にも作れたよっ! やった!」


 私と一緒にニードルで作ったマスコットキャラクター。簡単に作ったから少し歪だし、そこまで出来は良くないのだけれども、舞白は喜んでいるようだった。


「これいいね。私もさ、一人で作ってみたい!」

「いいよ、いいいよー! どんどん作っちゃってー?」


 舞白は自分でも作れたことが相当嬉しかったのだろう。今まで見た中で一番の笑顔を見せてくれたかもしれない。純粋な笑顔。可愛い。


「じゃあさ。同じのを作っても面白くないから、これ作ってみよう?」


 別のお手本として、羊のぬいぐるみを取り出す。白色を選んだ舞白だから、それに合うような可愛いものといったら、これだろうという提案だ。

 反抗期真っ盛りの舞白だけれども、素直に頷いてくれた。


「やってみるね!」


 そう言って黙々と作業を始める舞白。

 真剣そうに取り組む顔は、すっきりと整っている。たまに顔を動かしてお手本を眺めて、手元に目線を戻す。

 小さいお人形が動いているような、そんな仕草にも見える。


 はぁ……。今すぐ抱きしめちゃいたいくらいだなぁ……。


 舞白を眺めていると、ホワイトリリー寮の新入生が話しかけて来た。


「お姉様! 私たちも、もう一個作ってみたいです。せっかくなので、みんなでお揃いにしたいなって思って」

「はい、いいよー。どうぞどうぞー? お手本は一個しかないから、ここで一緒に見てやってくださいね」


 そう言って、舞白の隣に座らせる。一人座らせると、他の子も舞白の周りに集まってきた。


「うんうん。友達と一緒に作っても楽しいからね。舞白も友達いっぱいで良かったね!」


 後方で腕を組みながら頷いていると、早乙女恭子が舞白に話しかけてくる。


「もう作っているのですね、舞白さん。すごくお上手ですわっ!」

「えっ、あっ、はい。……ありがとう」


「わからないところが出て来たら、教えてくださいねっ!」

「……はい」



 舞白は他の子が傍にいることで少し緊張しているようだけれども、楽しそうに笑いながら作っている。

 みんな慣れてきて教えることもなくなってきたし、せっかくだから私も作ってみるかなー?


 私も席に座ると、みんなと一緒に作り始める。



 談笑したり、黙々と作業したり。手芸部の活動を楽しんでいった結果、羊のぬいぐるみが出来上がった。


 みんなが作り終わったぬいぐるみたちを見回すと、意外と出来がいいように見える。私ってば、教えるのが上手いのかもしれないな。


「そうしたら、仕上げにぬいぐるみにアクセサリーを付けてみようよ? みてみて、これを付けたらさ。ほらっ! キーホルダーみたいになるでしょ?」


 小さなぬいぐるみの頭に丸いパーツをねじ込んで、パーツを付けることで、単純なマスコットがキーホルダになる。


「私の分を作ってみたから、みんな参考にやってみてね。同じパーツは箱の中に入っているからね」

「はい! やってみますっ!」


 素直な新入生たちは、素材箱に集まっていった。


「ねぇ、千鶴。このパーツってさ、何色もあるんだね」

「そうそう、羊の色に合わせてね用意してあるんだよ」


 舞白はなぜかモジモジしだして、なにか言いづらそうに口を開いた。


「……私、千鶴と同じ色がいい」


 言った後には、恥ずかしそうにそっぽを向いた。


「ふふ、そう言うと思ったよ。ちゃんと同じ色を取ってあるから大丈夫だよ!」

「……うん」


 舞白のぬいぐるみ付けてやると、私とお揃いのキーホルダーになった。

 さすがに出来栄えは違うけれども、色は全く同じ。


「……やった。これ、千鶴と同じやつだ」

「これをね。カバンとかに付けたら可愛いと思うよ。一緒に付けよっか!」


 舞白にだけ話していたつもりが、他の子にも聞こえていたらしい。


「いいなー! それって、お姉様とお揃いってことじゃないですかーっ!?」

「羨ましいですわー!!」


 みんな、羨望の眼差しでこちらを見てくる。それはそれで、気分は良いけれども、私は舞白のお姉様だからね


「ははは、皆さんもお姉様とお揃いにするといいですよ。もう一つ作っても大丈夫ですのよ?」


「はいっ!……けどけど、お姉様にあげるとしたら、もう少しクオリティを上げたいです……。これでは、まだ可愛くない……」


 早乙女恭子はうつむいて、悲しそうな顔をした。なんだか、恋する女の子みたい。

 第二の可愛い妹のために、助け船を出してあげるか。


「そうしたらね。手芸部に入部してくれるか、もしくは、私の部屋に来たら教えてあげるよ?」


 早乙女の顔がパッと明るくなった。その他の子も、こぞって私に寄ってくる。


「お姉様の部屋に行きますっ!!」

「私も、私も!!」

「ずるいですわ、私も白川お姉様に教えてもらいたいです!」


「まぁまぁ、みんな一緒に教えてあげるからねー」


 押し寄せるホワイトリリー寮のメンバーに隠れて、小さい声が聞こえる。


「…………ダメ」

「……へっ?」


「みんな、自分のお姉様に教えてもらったり、そういうのしたらいいじゃん。千鶴は私の……」



 舞白の小さな訴えに、早乙女恭子は少し下がる。


「そうか。そうですわね。白川お姉様は、舞白さんのお姉様ですわね」


 舞白は前へ前へと押しやられて、私の傍までやってくる。

 かといって、なにを言ってくるわけでもなくて、うつむいてしまっている。さっきの威勢はどこへ行ったのやら。


「舞白は嫉妬してるのかな?」

「してないわっ! ばかっ! このぬいぐるみは、私が教えてもらったんだもん! 千鶴は私だけにお揃いって言ったんだもん!」


「はいはい。いいよいいよー!」


 ふてくされる舞白の頭を、優しく撫でてやる。

 少し恥ずかしそうにしながらも、嬉しがっているようだった。



「二人とも、良い姉妹ですわね。羨ましいですわ!」


 早乙女恭子なのか、誰かが拍手をしだした。

 次第に、教室には大勢の拍手の音が響いていた。

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