第16話 手芸部の体験入部

 放課後の被服室。

 ここが手芸部の活動場所だ。


 教室までやってくると、部屋の中には見慣れない新入生がいっぱいいるようであった。

 その中には、私と同じホワイトリリー寮の生徒も子もいるようで、グループを作って談笑しているのが見えた。


 この時期の部活は、体験入部の生徒が大勢来て大盛況になる。通常の活動時期よりも大人数が教室の中でひしめき合っている。


「あっ、白川お姉様ー! お待ちしておりましたわー!」

「ふふふ、ごきげんよう」


 ホワイトリリー寮の新入生、確か名前は早乙女さおとめ恭子きょうこだったかな。いかにも手芸が好きそうなロール巻きの髪型をしている。

 一番最初に挨拶してきたのは恭子を皮切りにして、他の新入生も次々に挨拶してくる。


「ごきげんよう。体験入部に来たのですね。よろしくお願いします」

「はい!」


 年下から慕われるっていうのは、なんだか気持ちいがいい。

 先輩風を吹かせられる数少ないチャンスだからね。舞白が来るまでは、いい思いをしておこうかな。そういう時って自然とお嬢様言葉が出てしまうのよね。ほほほ。

 私の根っこは、実はお嬢様なのかもしれないですわね。


「……千鶴。なんか外面キモイよ?」

「……あ、あれ? 舞白さん……? 既にいらっしゃったのですねぇー……」


 目を細めて、ジトーっとこちらを見てくる舞白。

 私は舞白のお姉様でもあるけれども、寮の新入生皆のお姉様なわけなんだけども。

 なんだか、外面を良く見せようとしていた私が恥ずかしいわ……。



「千鶴が来いっていうから来たんだけどさ。なにすりゃいいの」

「せっかくだから寮のメンバーみんなで一緒にやりましょ? みんなも一緒に仲良くやりましょうね! 仲間作りも活動のうちですわ!」


「はいっ! よろしくお願いします、お姉様! 雪野さん!」


 舞白のツッコミから気を取り直して、準備していた素材道具入れを、棚から取り出す。

 体験入部用の簡単な作業を考えていたのだ。結構人数が集まったから、寮のメンバーでグループを作ってやるのも楽しいかもしれない。


 手芸部は基本的には、自由にグループを作ったりして活動をしていくのだ。

 わからないところは、グループ内でお互いに確認し合ったり、教え合ったりしている。


 ここにいる人は皆、手芸が好きで集まっているメンバーだから。手芸について聞かれても全然悪い顔をしない。

 そんなところが、孤立した私にとっては居心地の良い場所だったのだ。


 そんな体験を、舞白にもさせてあげられたらいいと思うんだ。


「それでは、体験入部用の材料はここにあるから、好きな物使っていいからね?」

「はいっ! ありがとうございます!」


 新入生は返事がいい。

 私が案内をすると、元からグループを作っていたメンバーは仲間内で楽しそうに材料を選び始めた。


 一方、舞白はというと、まだ一人のようだった。


「ほらほらー、舞白? 自分から積極的に輪に入って行かないとダメだよー?」

「ふん……、そんなの知らないし……。千鶴、とりあえず教えてよ」


 舞白のお友達作りのために来てもらったんだけどな。まぁ、初めから上手くは行かないか。とりあえず私が教えてあげよう。


「じゃあ、まずは『二ードル』をやってみよっか」

「千鶴のおすすめでよろ」


「そうしたら、ここから好きな色くらい選んでみて?」

「うぃ」


 結局のところ、舞白はやっぱり子供なんだよね。なんのあたりもつけずにごそごそと漁って、お目当ての色を見つけたようだ。瞳をキラキラと輝かせてこちらに見せてきた。


「これにするっ!」

「オッケー、それでやっていこうね。じゃあ、私も同じ色にしようかなー?」


 舞白が選んだ色は白色だった。

 私たちのホワイトリリー寮のカラーだし、いいチョイスかもしれない。



「そうしたらね。次に使うのは、このニードルっていう道具だよ!」

「なんか変な形の道具だね。縫うんじゃないんだ? 針穴も付いてないし?」


「そうそう、これをね、えいえいって綿に刺していくの」

「ふーん」


「このフワフワしている綿状なところを、中に押し込むようなイメージで刺していって形を整えていく」

「なんか簡単そうだね?」


 私がお手本を見せてあげると、舞白はそれに続いてツンツンとニードルを刺し始める。

 舞白は意外と手先が器用そうで、要領よく突いていく。



「そうそう、上手いんじゃない?」

「へぇー、これでいいのか。なんか楽しいかも……?」


 上手く行っているときの舞白は上機嫌だ。そういうときの笑顔は抜群に可愛い。近くで見れるのいいかもな。ふふ。

 舞白を眺めていたら、横から声を掛けられた。


「白川お姉様ーっ! 少しここ見て欲しいです。なんだか変な形になってしまって……」

「はい、早乙女さん。どこが分からないのかな?」


「ここなんですけども……」


 やっぱりお姉様って頼られる存在だよね。こういうのも、ちょっといいよね。


「お姉様、次は私にも教えてください! ここがわからないです」

「はーい、ちょっと待ってねー!」



 寮に来たのは、舞白だけじゃないもんね。いろんな子のお姉様になれている。あぁ、なんだか幸せかもなぁ……。

 次から次から、みんな私を頼ってる。ふふ。


 寮の子たちに教えながらチラリと横を見ると、舞白がムスッとした顔をしているようだった。


「ねぇ、全然楽しくないんだけど。……お姉ちゃん、かまってくれないし」

「はは、舞白。嫉妬しているの? 可愛いなー?」


「してないしっ! バカじゃないのっ?!」

「大丈夫だよ、舞白にも教えてあげるからね。続き作ってみよう?」


 今度は舞白を教える番。

 私は舞白の手を取り、一緒になって綿を突いてみる。暴れるように飛び出ていた白い綿が、ふわふわと丸まっていく。コツを知っていると、何回も刺さなくても形が整うのだ。

 少しづつ丁寧に舞白の手を動かしながら、段々と形を作っていく。


「優しく丁寧にやるのがコツなんだよね。強く差しちゃうと、固くなっちゃうからさ」

「……へぇ」


「これって、対人関係と同じかもなんだよ? 何回も強く当たっちゃうよりも、優しく接してあげる方がいい関係性が気付けるからね」

「……うん」


 握っている舞白の手が暖かい。

 集中しているのか、私の方を一切向かないけれども、微笑む舞白の横顔が見える。きっと楽しいんだと思う。


 一緒に手を取りながらやる二ードルって、一人でやるよりも少しやりづらさがあって時間がかかるけれども。いつもだったら味わえないような満足感があった。

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