「私」は電車のトラブルがあった深夜の
渋谷駅で、元カレである「あなた」と
再会します。
視線が合い、話しかけてくる「あなた」
ふたりのぎこちない、けれど、確かに
7年間離れていたことを感じさせる動作で
「あなた」は「私」に話しかけます。
文章が抜群に上手くて、雑踏の中、視線が合い
交錯し、少しずつ近づいてゆくふたりの様子や、地元の駅での思い出の中の気まずいふたりの様子が脳裏に鮮明に浮かび上がってくるようでした。
「私」の高校の時の心境がとにかく辛い。
一緒にいられなくなる。でも仕方ない、
けど辛い。そんな切ない気持ちが、胸にひしひしと迫ってきました。
高校生ではなくなって、恋愛も経験して
おとなになったふたり。
私はこのまま……このまま……と、願いながら
読みました。深夜の渋谷の雑踏の中で
会えるなんて一体、どのくらいの確率なん
でしょう。
ふたりとももし、フリーなら……もう一度、
それもまたアリなのではないかと……。
「私」がどんな選択をするのかは、どうぞ
ご自身でお確かめください。
本当にショートストーリーとは思えない
ほどの濃密で素敵な物語をありがとうございました……!
そして魔法のiらんどショートストーリーコンテスト「元カレ」部門、優秀賞受賞、本当に心からおめでとうございます……!!
本作、山田あとり氏の『渋谷駅、23:45』は、【魔法の i らんど「ありがとう またね、大好き」ショートストーリーコンテスト】の優秀賞受賞作です。
都会の喧騒の中で交差する現在と過去が、切なく美しいタッチで描かれています。
あなた「――久しぶり」
私「びっくりした、こんなところで会うなんて」
高校を卒業して七年後、主人公「私」は、もうすぐ日付が変わろうとしている時刻の渋谷駅で、元カレ「あなた」と再会します。
その偶然は、静かな波紋を広げていきます。
さて、
サブタイトルにある「さよならを過ぎた場所」とは……。
もしかしたら、あの岐路、高校三年の春近い頃に、
あなた「……もう会えなくなる」
私「……うん」
と、最後の会話を交わした地元の小さな駅なのでしょうか。
それとも……。
そこから別々の道を進んだふたりの七年という歳月の濃さは、語り過ぎず、しかし確かに心に触れてきます。
地元の小さな駅で別れ、都会の大きな駅で再会したふたり。
その行方は……。
ラストには、感情が包み込まれるような深い余韻が待っています。
この渋谷駅から、主人公「私」が向かう場所を、どうぞ見守ってください。