第52話

「どう?どう?」


と、ピーターは聞いてくるが、私は返事が出来なかった。

放課後チカに会っても何も言わずに居た。

それから暫く私は園田潤のことを口にしなかった。

ピーターも私の表情を窺いながら素知らぬふりを通していた。


何故返事が出来なかったのか…………

それは、園田潤に私と共通する何かを感じたからだ。

それが何なのか、私自身も暫く分からなかった。


ただ、ピーターやチカの見立てとは少し違うものだということは感じていた。

雪野美月に感じた同士的な力強いものでは無い何か………

そして、軽々しく口にしたく無いものだということも。


しかしある時、不意に分かった。

ダルさが尋常では無い時だった。

それは『儚さ』である。

『生きることへの儚さ』と言っても良い。

自分を肯定し切れない部分を抱えている。

だから生きることへの執着心が儚い………危うい………

それが、私のダルい病の一因でもあるような気もした。


園田潤を芯が強いと感じさせるのは、常に自分を持っているからだろう。

誰にも左右されない自分。

でもこの世界で、それを守り通す困難は並大抵では無い。

他人ひとに迎合して要領良く生きる方が余程楽だと思う。

自分を貫く為に使うエネルギーで疲れる自分が居る。

それは『生きる疲労感』でもある。

雪野美月にも感じたことだ。

でも雪野美月には基本的な生命力が有った。


私の疲労感の源は分からない。

アレルギーが心身両面へのダメージを与えていることは確かだ。

それが有るだけでクタクタだ。

一人旅や海外留学に憧れては居ても、湿疹や喘息のことが有っては実行など無理だと思ってしまう。

自立しての一人住まいさえ怖い。

『気持ち悪い』を考えると結婚も出来ないかもしれない。

私に未来は無い!

などと、悲観的な気持ちになるのが常だ。


そんなふうに考えると、確かに生きる気力は萎える。

でも、健康上のどんな問題にもめげず、寧ろ健康な人よりエネルギッシュに行動している人も居る。

私の儚さ危うさは、もっと根源的な源が有る気がした。


私の魂はこの世界で生きることを望んいないのだろうか?………


そして、園田潤も同様の源を持っているように思えた。

少なくとも健康上の問題があるようには見えないから、私以上に深い源を持っている可能性も有る。 

でも私だって一見不健康には見えないだろう。

喘息の発作は吸入で抑えることが出来るし、湿疹や酷い痣も上手く隠しているのだから。

ひょっとしたら園田潤も病を隠している可能性を否定出来ない。


この『儚さ』が共通点なら、園田潤とは離れていた方が良いと私は感じていた。

儚さは、タフなエネルギーに救われるかもしるないが、儚さと儚さは同調し合って一緒に崩れていくか、どちらか片方がもう片方の犠牲になって崩れていく可能性が大きい。

それだけにお互いの引力も強いのだろうけれど。


ピーターにその話をすると、返答は無かったが真顔で暫く頷き続けていた。


                      チカにも話した。


「だからたぶん私と園田潤が両想いになったら、って言うか、その気になれば私達ってもの凄く引き合うと思うから、もしそうなったら、お互いにお互いを不健康な方へ引きずり込む可能性が有ると思うんだ………」


「つまり例えばだけど………何か有ったりしたら、お互いを補い合うんじゃ無く、あまりに共鳴し合うせいで危ない方向へ突き進んでしまい兼ねないってことよね………


ん………確かにそうかも……アイラと潤くんて………」


チカは改まった表情で私を一瞥した。


「私も決して陽タイプじゃ無いけど、どっかノウテンキなとこ有るからな!」


「だからチカには安心して居られるんだと思う。


確かにチカは陽じゃ無いけど、ちゃんと根源的な自己肯定感を持ってる気がするもの。

私が溺れた時は一緒に溺れるのが分かっていても私を助ける為水に飛び込むんじゃ無く、チカ自身の安全を確保した上でその安全な場所から私を引っ張り出そうとするタイプだもんねチカは………

そしてそれが私を救える唯一の方法なんだよ!」


「そんなふうに言われると泣いちゃうぞ!

ったく、アイラは私に感動を与えてくれる天才!


私を自己肯定させてくれたのはアイラかもよ!

今のアイラの話を聞いていたらそんな気がしてきた。

私も元来は自己肯定出来ないタイプだったかもしれないけど、アイラの一言一言が私に自分の存在価値を気づかせてくれたように思える………」


「チカだって私を感動させる天才じゃん!」


チカと私のドラマのようなくすぐったい会話を聞いていたピーターは


「痒くて堪らん!」


と叫んで逃げて行った。


                       

それからはチカもピーターも園田潤のことを言わなくなった。

私も出来るだけ考えないようにした。


                  

            つづく


挿絵です↓

https://kakuyomu.jp/users/mritw-u/news/822139838352043597

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