第38話
文化祭の熱は次第に冷めていき、3週間後の劇団公演までには何とか落ち着いた。
私とピーターは
「こんなもんだね!」
「こんなもんさ!」
とシビアに気持ちを切り替えた。
チカは
「大波だったけど、あっという間に引いちゃったね」
と、少し寂しげ。
2年生達はけっこう後を引いていたようで、可也長い期間
「あの栄光は何処へ行ったの?!………
何故今は静かなの?!………
ねぇロミオロミオどうして貴方は去っていくの?!」
と、折に触れ私をからかいながら余韻に浸っていた。
特に『私のロミオ』が誰なのか攻撃はどんどんエスカレートしていった。
「あんだけアピールすりゃ知りたくなるさ!」
とピーターは素っ気ない。
「お願いだから私をスパイにしないで!
先輩達がアイラのロミオを教えろ教えろって困るんだけど………
いっそバラしちゃえば?!」
半分笑いながらチカは言う。
でも、そういう知られ方を一番嫌いそうな雪野先輩への迷惑を考えると
「ごめん! 知らぬ存ぜぬを通してくだされチカ殿m(_ _)m」
と言うしか無い。
ただ私は、遠くで見ているだけだった雪野先輩への『積極的なアプローチ』が視野に入る段階になっていた。
でもそれは所謂『告り』とは少し違うものだ。
初めて経験する劇団の本格的な舞台が間近に迫ってきた。
校内では、私立校の受験結果が出始め、晴々とした3年生が胸を張って闊歩する横で、年明けに受験を控えた公立校志望のメンバーが病人のように青白い顔で背中も丸くなっている。
雪野先輩も柔らかさを失っていた。
受験の為に折角の正月休みも返上しなければならない病人擬き達の前で年末年始のイベント計画をルンルン語るのも憚られたが、何とか期末テストもクリアして残す難関は劇団公演だけとなった私は、病人擬きへの配慮など何処へやら、楽しいクリスマスや初詣の話題で持ち切りだった。
文化祭の演劇発表で『やり切った』感を得ていたことが拍車をかけていた。
「クリスマスが楽しみだけど、あんまりウキウキしてると雪野先輩に申し訳無いし……」
私が浮ついた心を懸命に抑えながらブリっ子発言をすると
「受験生は毎年居るんだから、そんなブリっ子は一生楽しむこと出来ないじゃん!
素直に楽しめよ!」
と、ピーター。
私はピーターがそう言ってくれるのを待っていたので、すぐにブリっ子衣を脱ぎ捨てた。
とは言え、目の前まで来た劇団公演には可也緊張していた。
本格的な舞台の張り詰めた空気はただものでは無い。
実を言うと、私が華やかなイベントに浮かれようとしていたのは、目の前に有る恐怖から逃れたい気持ちも有ったと思う。
つまり現実逃避ってヤツだ。
そう思うことで病人擬き達への言い訳をしている私も居たかもしれないが………
ったく!ややこしい!
つづく
挿し絵です↓
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