第37話
私は雪野先輩がエリートに有りがちな特別意識に甘んじているタイプでは無いことを確認できた気がしてとても嬉しかった。
確かに私とは違う景色を見られる世界の存在ではあるかもしれないが、雪野先輩はそこに胡座をかいているわけではなく、別の世界を見る広い視野と全てを受け入れる強くて大きな心を持っているのであり、決して自分の基準を押し付けたり排他的になったり蔑んだりしない人だと確信できた。
魅力を感じるものを何でも素直に認めることは、本人に確かな自信と自信を裏づける実力が育んだ余裕が有るからだ。
雪野先輩にとっては頭の良さも、サックス等の趣味も、その余裕の源になっているのだろう。
勉強オンリーでは無く幅広い視野と身に付いたものが有れば、どれか一つに拘る必要も執着する必要も無い。
常に自由な心をキープ出来る。
秀才であることを誇示したり、自分の基準に充たない存在を蔑視したりするのは、秀才であると言う事実以外何も無いからとも言える。
秀才と言うブランドにしがみついているだけだ。
私達の舞台に純粋な感動を示してくれた雪野先輩が、より輝いて見えた。
そして私は、雪野先輩の深くて広い精神を感じたことで、自分を卑下すること、他人と比べることが如何に無意味であるかを実感した。
それを無くすことはなかなか難しいが、私の中の核の部分が少し逞しくなった気がした。
私は、人を感動させることが出来た、
癒しと休息を差し出すことが出来た。
初めて経験したカーテンコールやスタンディングオベーションの感動!
そして何より演じることの感動!
私の辞書にも、ちっぽけではあるけれど『自信』と言うワードが加えられた。
雪野美月に接近することを許されたような感覚だった。
その日から私達演劇部員は時のスターになった。
私の存在も、雪野先輩に向けて発信した行動で雪野先輩だけで無く全校生徒に知られることとなった。
休み時間廊下を歩けば、スレ違う女子がざわめくようになり、わざわざ教室まで来てサインをねだる女子まで現れた。
数日後、部活が終わって昇降口を出ると、外に行列が出来ていたことも有った。
何と私達待ちである。
「芸能人並みだね!」
嬉しい反面、演劇を『創る』ことが好きな私達にとって、この状態はちょっと違うとも感じていた。
それは逆の立場でも同じだったようだ。
文化祭の熱が残っている間は、演劇部に入りたがる者が毎日何人かづつ入部申し込みや見学に来ていたが、本番の華やかさとは裏腹に地味で真剣な活動を見ると大半は諦めていった。
殆どは既に他の部に所属しているので、そう簡単に移籍するわけにもいかないし………
と言うことだろう。
つづく
挿し絵です↓
https://kakuyomu.jp/users/mritw-u/news/16818792435427011239
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