第14話

ママは、私が居ない時間を利用して少しづつ内職程度に絵の仕事を始めた。

出版社で働いている友達に時々頼まれるのだと言っていた。

ささやかな小遣い稼ぎ位の収入にしかならなかったようだが、まだ私が手を放せないうちはむしろその程度が良かったようだ。


ママは私が幼稚園から戻った時には仕事の気配を完全に消していた。

それが家で仕事を続ける上で、絶対守ろうと決めたママのポリシーだった。


「アイちゃんが大きくなったら、もっといっぱい絵を描くわ!」


その頃のママはよくそう言っていた。


                      

ママは日毎にきとしてきた。


                      


私の名前は藍羅と書いてアイラだ。

藍色の藍と薄絹を意味する羅。


ママはとりわけ藍色が好きだった。

何段階にも分けて染める鍛錬の色、藍。

青と緑の中間と言うより、青と緑が共存する色。

そのくせ、青にも緑にも迎合せず、自分を柔らかく、それでいて強く主張する色。

しっかりとしたアイデンティティを持ちながら、自分以外の色を生かすことも出来る。

物怖ものおじしないりんとした強さと、宝石の輝きのような繊細さを合わせ持つつややかな色。


ママは作品にも藍色をよく使った。


そんな藍色の薄絹………

どんなに魅力的だろう………

と、自分の名前の由来を初めて聞いた高校生の私はとても感動したものだ。


そして、両親が、と言うよりどちらかと言えばママが私に託した思いを知って、きっとそんな人になる! なりたい! とその時心に決めたのだった。


                 

            つづく


挿し絵です↓

https://kakuyomu.jp/users/mritw-u/news/16818093094787485111

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