第13話
それは寺の住職さんが経営する小さな幼稚園の園庭前に有った。
白い板塀に囲まれた小山の一画で、裏へ回ると片隅の板が少し割れて子供が入れる位の穴になっている。
私は中への入口だと思った。
子供が入れる位の穴が入口なわけ無いと分かったのは、私が中学生になって、自分の大きさでは既に入れないことを知らされた時だった。
だから本当は入ってはいけない場所だったのだ。
だが初めてその場所を見つけた時は、入口が有るのだから入ってみよう的な軽い気持ちで入ってみた。
すると、急に空気が変わった。
幼い私が感じ取った空気の変化は今でもはっきり思い出せる。
幼いながら感じたのは、まず、それまで体感したことの無い高貴な穏やかさ、そして自分が生きて居る外の世界との不思議な
何故か懐かしい気持ちもしたが、同時に怖くもあった。
入った場所は高くて細長い道になっており、その道は板塀に沿ってぐるりと一周していた。
道に囲まれたクレーターのような窪地には、石作りの立派な人工物が有り、まるで別世界に入り込んだ気持ちだった。
好奇心と怖さが ないまぜになって興奮が募ってくる。
今思えば宇宙基地を見たような興奮だったようだ。
怖いけど、折角入ったのだから一周してから出ようと決めた私は、内心ドキドキしながら細い道から落ちないよう細心の注意を払って歩き始めた。
ピーターも空気を感じたようで、私の髪の毛をしっかり握ったまま私の肩に
いつものようにあちこち飛び回り探索することも無い。
あと20㍍程で例の穴に到着という時、穴からひょっこり男の子の顔が出た。
近所のお兄ちゃんだった。
お兄ちゃんは馴れた様子で中に入り、道から窪地に降りて石の作り物を見物し始めた。
私は再び空気が変わったことに気づいた。
外と同じ空気になったのだ。
怖さも無くなった。
ピーターも私の肩を離れて自由に飛び回り出した。
急にお兄ちゃんが
「お前も出た方が良いぜ!」
と言って穴から出て行った。
ピーターと私も後を追ったが、お兄ちゃんはさっさと行ってしまった。
いつかまたあの穴から中に入りたいと切望しながら、結局未だ行けずに居る。
『行けずに』では無く『行かずに』と言った方が正解かもしれない。
もしあの時、お兄ちゃんが入って来ることも無く、あの空気の中に居続けていたら、ピーターと私は あそこから出られただろうか? という思いが
そしてあのお兄ちゃんは何故私も出た方が良いと言ったのか……………?
今も疑問が残っている。
あの囲いの中が、昔の殿様一家の墓地だと知ったのは、大人になってからである。
つづく
挿し絵です↓
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