第10話
私の幼稚園生活も馴れてくると、ママも私の居ない時間がある生活に馴れてきた。
独りの時間が出来ると考えることも多くなる。
ママは星になった赤ちゃんのことをよく考えるようになったようだ。
幼稚園に迎えに来ているママの顔を見れば、辛い事を考えていただろうことが分かる。
でもママは相変わらず私を見つけると満面の笑顔になった。
その落差が私には
「ママ、どうしたの? 元気無いね。私に話して」
と言えるから。
でもきっとママは
「そおぉ?
大丈夫!何でも無いから」
と言うだろう。
どっちにしても結局同じか………
と私はいつも諦める。
そして身体中
その頃私のアトピーはどんどんエネルギッシュになり始めていた。
特に両手の湿疹は私が成長すればする程
夜ピーターがいろんな経験をさせてくれても痒くて目が覚め、結局眠れなくなる。
当時はステロイド剤もあまり普及していなかったので、一時的に痒みを抑えるということも出来ない。
今でもステロイドを頻繁に使用することは良く無いとされている。
あまり無茶な使い方をすると、効果が無くなり、リバウンドして酷い症状になる。
ステロイドは治すのでは無く、症状を
表面は一見
軽いものなら、表面の症状を無くし、掻かないで居ることで治ることも有るが、殆どは再発を繰り返し何度も同じ経過を辿るうちに効果は失せる。
リバウンドした症状を治すことは至難の業だ。
何しろステロイドが効かなくなっているわけだから、一時対処さえ出来ない。
症状はそのままにして内面から体質改善する等が関の山だが、これが一番難しい。
死ぬ程苦しい。
痒くて掻けば悪化するし、猛烈な痒みに耐えるのは気が狂いそうな苦痛だ。
私が無意識に掻いていると、よくいきなりパパが
「掻くな!」
と怖い顔で怒鳴った。
私はドキッとして、まるで悪い事をしているみたいな情けない気持ちになった。
パパも昔湿疹を経験していたと後々分かって『なるほど』と思ったけれど、当時の私は湿疹の苦しみとパパの怖さの両方に押し潰されていた。
そんな時は、パパの髪の毛でトランポリンをするピーターが私を笑わせ救ってくれた。
湿疹の塗り薬は、独特の匂いがした。
決して良い匂いでは無い。
加えベタベタしていたので衣類や持ち物にも付着し、匂いはどんどん広がる。
掻かない為に包帯をするようになったが、それでも匂いはする。
私はその匂いがとても気になった。
そして遂には匂い全般が気になるようになった。
何の匂いもだ。
特に酷い湿疹の有る手の匂いが気になり出すと止まらず、窒息するくらい両手の匂いを嗅ぎ続ける習慣がついてしまった。
薬の匂いだけでは無い。
湿疹の皮膚から滲み出る汁の匂い、掻いた傷の匂い、その傷から出る血の匂い、包帯の匂い、包帯に付いた汁やカサブタの匂い等々………
今思えば、その姿を端で見たら異様だっただろうと苦笑する。
つづく
挿し絵です↓
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