第8話
私の大量お漏らし事件の後、ママは元の明るいママに戻った。
正確には戻ろうと努力していた。
夜中の泣き声も聞かなくなった。
でも半赤ん坊の私は、ママのオーラにまだ濁りがあることを見逃していなかった。
ママが私の為に頑張っていることも。
だから私も頑張らなきゃといつも思っていた。
その思いは防波堤を強く高くしていった。
そのうち自分の弱さや本音を覆い隠すことにも慣れてきてお漏らしも無くなったけれど、その代わり様々なアレルギー反応を出すようになった。
喘息、アトピー、鼻炎等々である。
だから寧ろ私の防波堤は、私を守る為では無く、私を押さえ付け、監禁して、アレルギー反応という形でしか外に出られなくするバリアになったのだ。
慣れることで確実性が育まれ、お漏らしより根深い症状を出さなければならない事態になったとも言える。
それからの症状はしつこく残酷に私を
症状の苦しみに加え、平常よりピリピリイライラして集中出来ない。
その為に
その頃のピーターは、いつも私を笑わせてくれた。
こんな事を覚えている。
ある日3歳の私は転んで怪我をした。
ママが怪我をした膝小僧に消毒薬を塗ってから
「痛いの痛いの飛んでいけ〜!」
と叫んで、何かを散らすように手を上げた。
私は
「痛いのは何処に行ったの?」
とマジで聞いた。
『痛いのさん』が居ると思ったのだ。
ママは愉快そうに
「あっちに行ったからもう大丈夫!」
と言って笑った。
ママの指差す『あっち』を見ると、手足を蛸のようにクニャクニャ動かしながら遠ざかって行くピーターの姿が見えた。
「あっ!居た!」
私はピーターを指差して手を振った。
「行ったでしょう!」
と言いながら、ママは堪え切れないという様子で暫く真っ赤な顔をして声無く笑っていた。
あの幸福な瞬間をはっきり覚えているのは、ママの本当に楽しそうな笑顔を見たのが久しぶりだったからた。
つづく
挿し絵です↓
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