第7話
ママが唐突に元気になった時から数日前、ママは急に私の目前で苦しみ出し、自ら救急車を呼んでかかりつけの病院に運ばれた。
私しか居なかったので私も同行した。
そしてすぐ入院が決まった。
この時、病院という所の生と死が入り乱れた強烈なエネルギーを私は知った。
それこそが根源的な現実だなどとは、当然半赤ん坊が理解する筈も無いが、ただただ恐ろしく虚しいエネルギーに圧倒され続けていた。
ママと私との逃れようの無い絶対的な距離、そしてそれが一生私達に付きまとうことを余儀なくされる現実を、一気にストンと感じ取った。
その時私は、ママが私を守ってくれているなんて事実は、とても
今は、いつもの馴れた現実とは逆転して、自分がママを守り支える立場に置かれていることを強引に自覚させられた。
この逆転は、この時だけで無く、生きている限り常に日々の生活と背中合わせで存在していることも理解した。
待合室で隣に座っていた知らないお婆ちゃんに優しくされても、半赤ん坊は終始
ママを守る為に、弱い心を抑えていなければならない。
一度流れ出した弱い心を止めるのは無理だ。
そう分かっていた。
だから防波堤を築いたのだ。
「しっかりした子だねぇ………」
とお婆ちゃんは褒めてくれた。
私は嬉しかったが、同時にママの全てを自分が背負っていると駄目押しされているようで、益々怖くなった。
今考えるとあのお婆ちゃんは、私のそんな気持ちも見抜いていたように思う。
そんな年輪を感じさせるお婆ちゃんだった。
お婆ちゃんはパパが来るまでずっと私の手を握って居てくれた。
それからの私は、パパやママに対しても、つまり私の現実全てに対して防波堤越しに接するようになった。
赤ちゃんが『星になった』と聞かされた時、私はママの中に有る『嘘』を感じ取って、より強固な防波堤を築こうと
その結果、防波堤に無理な力が加わってヒビが入り、水が流れ出した。
それが文字通りお漏らしとなって流れ落ちたのだ。
後々、自分の防波堤を壊したくて、例え半赤ん坊でも親はしっかり真実を話すべきだと思ったことも有ったけれど、今は親の悲しみ苦しみ私への気遣いを思うと、あからさまに伝えることの難しさもよく分かる。
般若顔の意味も理解出来る。
人を般若にさせる苦しみこそ憎むべき、人間の生そのものを憎むべき、と八つ当たり的に思うことも有った。
そんな八つ当たりを完全に無くすことが出来る程、私は今も悟っては居ない。
だから世の中に対する新たな不信感を抱き続けているのも今の私だ。
私はまだ半赤ん坊なのかもしれない。
だからピーターとは今も仲良しだ。
つづく
挿し絵です↓
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