第6話
ママの具合が悪くなって一ヶ月近く経った頃、ママのお腹の中に赤ちゃんが居ると聞かされた。
私自身がまだ赤ん坊を卒業し切れていなかったので、あまりピンとこなかった。
それに、私にその事を話す時のパパとママは、凄く怖い顔をしていた。
おまけに、「お腹の中で赤ちゃんは頑張っているし、赤ちゃんが今居るママのお腹はとっても弱っているからママはあまり動けない」
なんて言う。
ママのお腹が弱ってる?………
どういう事かさっぱり分からなかった。
得体のしれない不安がいつも私に付きまとい始めた。
正直、その頃は不安だなんて意識は無かった。
ただただ自分でも分からない何かに怯えていた。
暫くして、唐突にママが動き出した。
まだ暗いオーラに包まれていたけれど、昼間横になることも無くなり、生活のサイクルは元に戻った。
でも私は不安から抜け出せなかった。
いや寧ろどんどん不安は大きく膨らんでいった。
同じように暗いオーラを放つパパが、わざとらしい程ママに優しくなったし、何より、昼間は元気そうにしているママが、夜中布団の中で泣いていたからだ。
ピーターとワンダーランドで遊んで居ても、ママの泣き声が私を引き戻す。
私はパパとママに不信感を抱き始めた。
そんなある日、私は口に出してはいけないと直感的に感じていた事を聞いた。
「赤ちゃんは?」
するとママは、一瞬般若の形相になった。
この瞬間の恐怖を私は今でもはっきり覚えている。
聞くべきでは無かったと私は自分を責めた。
すると私の表情を見てママが気持ちを切り替えていることが分かった。
そしてママは、しゃがんで私を両手で包むと、こう言った。
「赤ちゃんね………お星様になったの………」
私のトレーニングパンツがどんどん生温かくなった。
パンツがぐっしょり濡れても足りず、隙間から流れ落ちた温かい水で床にも水溜まりが出来た。
『星になった』ということがどういうことなのか、半赤ん坊に解る筈も無い。
しかし、決して星になどなっていないし、そんなふうに話を作らなければならない程、この事態が自分達にとって危険極まりないことは
そして『星になった』赤ちゃんには永遠に会えないことも。
つづく
挿し絵です↓
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