第5話

その頃よくピーターは、夢の中で私をいろんな所へ連れて行ってくれた。

殆どが絵本に出てくる場所で『アルプスの少女ハイジ』のアルプス山脈だったり、誰も知らない架空の世界だったり、空気の匂いや花の香り、感触、鳥のさえずり、至福感等々が、まるで現実みたいに感じられる夢だ。


                       ママの具合が悪くなる前は、私が布団に入ると必ずママが添い寝して絵本を読んでくれた。

ママは絵本を読むのが上手だったし、ママ自身も絵本の中に入り切って楽しんでいた。

それぞれのキャストに合わせた声や雰囲気を作り、私もその世界に居るように感じさせてくれた。


私がティーンエイジャーになって、初めての部活を決める時に聞いたところによると、ママは演劇部だったらしい。


ママは本が最後のページまできても、私が起きている限り何冊だって読んでくれた。


いっときママの代わりにパパが夜の読み聞かせ役を任されたが、一冊の半分も読まないうちにいびきが聞こえてくるのだった。

私は幼児なりの配慮で、既に暗記していた文章をママと同じ口調でパパに読み聞かせていた。

そしてパパが寝言を言い出し始めると、私は


「おちゅかれちゃま」


と言ってパパのホッペにチューをしてからピーターと眠りについた。


その頃の私は、毎夜のようにパパを寝かしつけてから見るピータープロデュースの夢世界に行っていなければ、きっとボロボロになっていただろう。

何故なら、ママがボロボロだったからだ。


                  


            つづく


挿し絵です↓

https://kakuyomu.jp/users/mritw-u/news/16818093094195405323


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