20. 新しいお店
あれから半月ほど。
私は今日も朝から魔道具作りに取り掛かっている。
魔道具の売れ行きは予想していた以上で、ほとんどの工程を魔道具で行えるようになったのに、毎日売り切れを出すような状況だ。
貴族も訪れるようになったことは嬉しいのだけど、大抵は大量に買い占めていくから、冒険者達に行き渡らなくなってしまうのよね。
だから一人二つまでの制限をかけたのだけど、貴族は使用人を総動員して買い占めに来るから、大量に作る以外の解決方法が思い浮かばない。
「……そっちは大丈夫そう?」
「ああ。不具合は無さそうだよ」
半月前は広々としていた二階だけれど、今は人が通れる通路を残して魔道具を作るための魔道具に埋め尽くされている。
だから一週間前から、食事は三階の会議室でとるようにしている。
「ありがとう。とりあえず、朝食にしましょう」
「そうだな」
今日は私達が魔道具を作る当番で、朝食はコニーとヴィンセントが担当だ。
アルベルトとフランクリンは土地を探しに行くことになっているから、私達よりも早めの朝食を済ませた頃だと思う。
「ルイス達はこれから朝飯か?」
「ああ。アルとフランクはもう済ませたのか?」
「先に食ったよ。今から土地探しに行ってくるから、店番は頼んだ」
「分かった」
「怪我とかしないように気を付けて。行ってらっしゃい」
「「行ってきます」」
朝食を済ませたばかりのフランクリン達と階段ですれ違い、そんな言葉を交わす。
それから、私達は三階に向かって朝食の席についた。
コニー達は先に朝食を始めていたみたいで、半分ほど食べ進めていた。
一方の私達の食事はというと、時間が経った今も湯気が出ていて、出来立てと変わらなさそうになっている。
実際は少し時間が経っているのだけど、食器の下に置いてある試作品の魔道具のお陰で温かいままなのよね。
「「いただきます」」
早速、料理を口に運ぶ私達。
今日の朝食は焼き立ての白パンとスープで、簡素に見えても中身は貴族の食事とほとんど変わらない。
パンを焼くのは本来なら手間がかかるものの、魔道具のオーブンを作って簡単にしたのよね。
そのお陰で毎日美味しいパンを食べられているから、頑張って良かったと思う。
「今日もすごく美味しいわ。
一昨日も良かったけど、このパンも気に入ったわ」
「もう気付いたの!? 上手く焼けるか分からなかったけど、上手く出来て良かった!」
「次も楽しみにしているね」
コニーが魔道具のオーブンを気に入って、朝のパンの種類が多くなっていて、次のパンを想像するのも楽しいのよね。
ちなみに、今日のパンは不思議な形をしていて、サクサクした食感だ。ふわふわのパンを好んでいたけれど、こういうのも良いと思う。
「ありがとう。少し相談したいことがあるのだけど……」
「相談? 何かあったかしら?」
「私、料理屋さんを開くのが夢だったの。今は魔道具店が大変だから、落ち着いてから私のお店を開いてみたくて、協力して欲しいの」
「料理店、素敵だと思うわ。お金のことは皆に相談しないといけないけど、他のことなら私も協力するわ」
正直なところ、お金なら新しい本部と工場を作っても、新しいお店を十店舗は開ける余裕があるのよね。
工場を作ってからは人を雇う予定で、そうすれば私達にも余裕が出来る。
だからコニーのお店のこともしっかり協力しようと思う。魔道具店で色々と助けてもらっているから、しっかりお返ししなくちゃ。
「ありがとう。今は商品開発を頑張るから、不味くても正直に教えて」
「いつも正直に言っていたけれど、次からもそうするわ」
お話している間に私の目の前のお皿は空になっていて、伸ばした手が空気を掴む。
うっかりしていたことが少し恥ずかしくて、私は視線を窓の外に向けた。
今日は空をどんよりとした厚い雲が覆っていて、気分はあまり晴れない。
けれども、今の生活は楽しいから、忙しくても幸せな気持ちに変わりはなかった。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
四人で食事の後片付けをして、二階の作業場に向かう。
それから、私達は新しい魔道具の製作に取り掛かった。
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