21. 厄介事のようです
しばらくして、私達はいつも通りの時間にお店を開けた。
今日も明るい時間から貴族に関係がある人達が大勢訪れていて、魔道具が飛ぶように売れていく。
今日から売り出している中級魔法の魔道具も、値段を高くしているのに、あっという間に売り切れてしまった。
初級魔法の魔道具の売れ行きは少し落ち着いたけれど、中級魔法の魔道具の噂が一気に広まったみたいで、お客さんの流れは止まらない。
そんな時だった。
「店主に話があります。すぐに呼んでください」
豪奢な服を纏った初老の男性が訪れたと思えば、私に声をかけてくる。
この人はどこからどう見ても貴族。家紋は……ここアレクサンドラ公国でも指折りの権威を持つデストリア公爵家のものだ。
大抵の貴族は高圧的で、正直に言うとお店には来てほしくないと思っていたのに、このお方は腰が低く嫌な感じはしなかった。
冒険者達には私が店主と知られているけれど、このお方は私が店主だと知らないらしい。
でも、彼が何を考えているのか、目を見ても分からない。私一人で対応するのは危険ね……。
だから、何かあった時に休憩している人を呼び出すための魔道具を起動させて、ルイス達を呼ぶ。
「わたくしが店主でございます。当店の商品に何か問題がございましたか?」
「商品には一切問題ありません。私が来たのは、あなた方を潰そうとしている勢力が居ることを伝えるためです」
その言葉を聞いて、二つの可能性が頭に浮かんだ。
このお方もその勢力と敵対していて、今の言葉が本当ということ。それから、私を利用するための口実を言っているだけの可能性。
どちらかは詳しくお話を聞いてみないと分からないから、詳しくお話を聞かないといけない。
貴族のお客さんが増えてから応接室も用意しておいて本当に良かったと思う。
「奥の応接室で詳しくお聞きしても宜しいでしょうか?」
「もちろんです」
「ありがとうございます。ご案内いたします」
私は貴族の礼をしてから、応接室にしている部屋へと向かう。
三階にあるから少し遠いけれど、この男性は不満そうにする素振りを一切見せない。
そうして応接室に入ると、彼は座らずにソファーの横で立ち止まった。
「おかけください」
「失礼します」
「お茶をお持ちするので、少しお待ちいただけますか?」
「ええ、構いません」
問いかけると、頷きが返ってくる。
お茶を淹れるための魔道具があれば便利だけれど、まだ上手く作れていないから、私は一階に戻ってお湯からお茶を作った。
それから応接室に戻り、招き入れた男性の前にティーカップを置いて、向かい側に腰を下ろす。
「お待たせしました。早速ですが、お話を聞かせて頂けますか?」
「その前に、自己紹介からさせて頂きます。私はユリウス・デストリアと申します。貴女のお名前を伺っても?」
デストリア公爵家の当主はユリウス様だから、目の前の彼が当主で間違いなさそうだ。
家紋と身なりから予想はしていたものの、今更ながら服に乱れがないか気になってしまう。
「わたくしはセシルと申します。本日は丁重な歓待が出来ず申し訳ありません」
「突然訪れたのはこちらの方ですから、お気になさらず。本題ですが、貴女の店を潰そうと企てている者が居ます。
ファンタム公爵家についてはご存じですか?」
「名前と立場くらいなら、存じておりますわ」
部屋は立派とは言えない。だから、せめて立ち居振る舞いくらいは不満を抱かれないようにと気を張る。
そのお陰か、ユリウス様は柔らかな笑顔を浮かべてくれていた。
悪意を持っている人なら、その思考が表情に滲み出るものだけど、彼からその気配は感じない。
貴族は悪意を隠すのが上手だからまだ油断は出来ないが、今の雰囲気なら信用しても大丈夫だと思う。
「ファンタム家は魔法の実力で公爵の地位まで上り詰めていることはご存じだと思います。しかし、その中身までは知られていないようなので、簡単にお話します」
それから語られたのは、ファンタム公爵家が複数の魔法属性を扱えることで、公国の貴族に対し軍事的に優位に立っているということだった。
簡単にまとめると、魔法の力で脅しているらしい。
そこに私の魔道具が広まったことで、地位が危うくなっているのだとか。
権力も武力もある貴族が相手だなんて、厄介なことになったわ……。
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