過労聖女が幸せになるまで

13. 気になる依頼

　翌日。

　無事に光の攻撃魔法の魔道具と、防御魔法の魔道具を完成させた私達は、今日も冒険者ギルドに来ている。

　今回の魔道具は最初に完成させたものとは少し変わっていて、簡単には蓋が開かないようになっている。

　中身を入れ替える必要が無いなら、この方が早く作れて効率が良いらしい。

　ちなみに、今回は私もルイスに教えてもらいながら外側も作っているのよね。

　繊細な作業は難しかったけれど、無事に完成したときはすごく嬉しかった。

「――防御魔法の効果はかなり高そうだ。これなら、攻撃魔法も期待できそうだ」

「それは良かったです。使い方は説明した通りなので、魔石の補充だけ忘れないように」

「分かった。君達さえ良ければ、これを他の冒険者達にも広めたいが、大丈夫か？」

「もちろん。皆の役に立てるなら、いくらでも紹介してくれ」

　他の人にも紹介してもらうことは私達の目的でもある。だから、ルイスは問いかけられると頷いた。

　私も一緒に頷いて、歓迎の意志を示す。

「助かるよ。店はどこに構えているんだ？」

「まだ店は出せていない。そのお金が無いからね」

「これから出すなら、その時には教えて欲しい」

「分かった。いつになるかは分からないが、見かけたら紹介するよ」

「ありがとう」

　そんな言葉を交わしてから、私達は魔道具代を受け取った。

　この冒険者達はかなりお金を持っているみたいで、金貨百枚を渡してくるとき平然としている。

　私は聖女の頃ならお金に困っていなかったものの、それは必要な物をお願いすれば使用人達が用意してくれるから。だから、手に伝わってくる、ずっしりとした重みに驚いた。

「……百。ピッタリだよ」

「分かったわ。壊さないように気を付けてくださいね」

「ありがとう。大事に扱う」

　ルイスが金貨を数え終えたところで、私は魔道具を手渡す。

　いつも買う側だったから、売る感覚には慣れる気がしないわ。

　こうして私達は無事に目的を果たし、次はギルドの受付に向かう。

　ギルドではお金を預かってくれるみたいで、どの支部でもお金を返してもらえるらしい。

「はい、これセシルの分」

「ありがとう。預けるのはどうすればいいの？」

「俺が先にやるから、見ていて」

　今回の売り上げは半分ずつ手にすることに決めていたから、私が預けられる金貨は五十枚。

　でも、宿代や買いたい物に使う分があるから、金貨四十枚を預けることにした。

　どうやら預けると借用書というものが渡されるみたいで、受け取るときは冒険者カードと一緒に見せることになるらしい。

　私もルイスと同じように手続きを済ませ、手元に残った金貨十枚をポケットに仕舞った。

　金貨十枚でも今の私には大金だから、ポケットだと不安でつい手でおさえてしまう。

「財布を買った方が良いかもしれないね」

「そうするわ。少し寄ってもいいかしら？」

「ああ。いい店を知ってるから、紹介するよ」

「ありがとう」

　言葉を交わしながら、受付を離れる私達。

　そんな時、依頼掲示板の方から気になる声が聞こえてきた。

「こんなに報酬が高い人探しなんて珍しいな。どういうことだ？」

「その特徴、ノワール王国の元聖女様らしいぞ。詳しい話は知らないが、今の聖女様では治せる人数が少なすぎて、元聖女様を探しているらしい」

「そういえば、行方不明という話だったな」

「ああ。しっかし、プラチナブロンドに赤い瞳は珍しいから、居ればすぐに分かりそうだ　な」

「身長も体型も書いてあるから、受けてみるのもいいかもしれないな」

「そうだな。受けよう」

　……今すぐに逃げた方が良さそうね。

　こんな依頼を出すということは、私を連れ戻そうとしているに違いない。

　魔道具を広めるとうい目標があるのに、今連れ戻されたら目標を叶えられなくなってしまう。

　それに、あんな過酷な生活に逆戻りなんて嫌だから、私はルイスの手を引いて急いで階段を降りた。

「急にどうした？」

「私を探す依頼が出されていたの。だから、もうこの町には居られないわ。

　でも、同じ依頼が他のギルド支部でも出されていたら、逃げきれないかもしれないのよね……」

「依頼なら、依頼が持ち込まれた支部でしか受けられないから、別の町に行けば大丈夫だと思う。ただ、その髪は目立つから外套を被った方がいい。今は寒い時期だから、怪しまれないよ」

「そうするわ。でも、どの町に行くのがいいかしら？」

「魔道具を売ることを考えたら、公都が一番良いと思う。

　今ならまだ乗合馬車が出ていると思うから、宿に戻ってすぐに荷物を纏めよう」

「分かったわ」

「その前に外套を買おう」

　こうして、私達は急遽この町を出ることになった。

　私達が最初に魔道具を渡した四人組の冒険者には申し訳ないけれど、今私が連れ戻されたら二度と魔道具を作れなくなってしまう。

　そんなことを思っていたら、ルイスがこんなことを口にする。

「さっきの四人組に公都行きを伝えてくる。すぐ追いつくから、セシルはあの店で外套を買っておいて」

「ええ。待っているわね」

　不安だけれど、今は行動しなくちゃいけない。

　だから、私はルイスが指差していた服屋さんに早歩きで向かった。