12. 最初の注文
一つ目の魔道具が完成した日の翌朝。
私達は冒険者ギルドで魔道具について紹介することにした。
元々は最初から売りに出すことを考えていたけれど、これでは私に偽物の魔道具を売りつけてきた詐欺師と同じになってしまう。そう考えたから、まずは理解を得ようと決めたのよね。
だから攻撃魔法や防御魔法以外にも、生活に便利な浄化魔法や水魔法の中身も作ってある。
「誰に声をかけるか迷うね」
「あの四人組はどうかしら?」
「どう見ても魔法を使えそうだが、大丈夫か?」
私が武器を持っていない四人組に視線を向けると、ルイスは不安そうな表情を浮かべた。
魔法が使える人なら、魔道具を使うよりも自分で魔法を使うことを選ぶ人が多いと思う。私も魔力に余裕があれば、使い慣れている魔法を使うことを選ぶもの。
でも、魔法が使えない人には、魔道具の魔法が本物かどうか判断するのは難しい。
魔道具が本物だという信頼を得るためには、魔法を使える人に紹介した方が良いと思ったから、敢えてこの選択にした。
「信頼を得るためなら、魔法が使える人に見てもらった方が良いと思ったの」
「なるほど、一理ある。そういうことなら、まずはセシルが言った人達にしよう」
ルイスは私の考えに納得したみたいで、そう口にすると四人組の方へ足を向ける。
私も彼の後を追い、ルイスが声をかけるのを待った。
「少し話したいことがあるが、良いだろうか?」
「ああ、暇だから面白い話だと助かる」
「面白い話かは貴方の考え次第だ。実は……」
いきなり声をかけても追い払われると思っていたから、こうして聞き入れてもらえることに拍子抜けする。
四人とも興味津々のようで、少し身を乗り出していて、良い反応を貰えると思うと期待せずにはいられない。
ちなみに、貴族の会話のような敬語が聞こえてこないのは、冒険者同士なら対等という考えがあるからなのよね。
私には違和感ばかり感じているけれど、ルイスは慣れている様子だ。
「……俺の仲間と一緒に魔道具を作ることが出来たんだ」
ルイスは少し間をおいてから言葉を続けた。
四人とも最初は驚いたような表情を浮かべたけれど、すぐに何かに気付いたようで、疑うような視線を向けてきた。
「魔道具なんて、絶対に作れない。その箱が魔道具とでも言いたいのだろうが、騙されないぞ。
本物なら、俺達が試しても大丈夫だろうな?」
「もちろん。ここを押し込むと水魔法が出るから、自分の手で確かめて欲しい」
魔道具なんて作れるわけがない。それが常識だから、疑われるのも当然だと思う。
だから水魔法を受け止めるためにと用意した桶を私が差し出して、ルイスがそこに魔道具の水魔法を注いだ。
「使い方はこんな感じだ。周りを水浸しにしないように気を付けて」
「分かった。これで良いのか?」
「ああ。出来そうか?」
「本当に魔法が出るとは……しかも魔力は減っていないぞ。
てことは、これ本物か」
「俺も試して良いか?」
どうやら無事に魔道具のことを信じてもらえたみたいで、四人組は順番に試していく。
そして二番目に試した人と私の視線が合うと、こんなことを問いかけられた。
「なあ、これの攻撃魔法版は作れたりしないか? もし作れたら、金貨百枚で買わせてほしい」
「属性の希望はありますか?」
「そうだな……無理だとは思うが、光が欲しい。俺達全員、闇と光が使えないから素早い魔物に毎回苦戦するんだ」
「作れると思うので、明日またここでお会いしましょう」
光の魔法である治癒魔法が作れているから、攻撃魔法も作れると思う。だから、私はそう言葉を返す。
金貨百枚というのは高すぎる気がするけれど、彼にとってはそれくらいの価値があるということだから、言い値で売ろうと思った。
「防御魔法は作れるのか?」
「ええ、作れますよ」
「ということは、防御魔法を使いながら攻撃出来るようになるのか……もう怪我をしなくて済むかもしれないな」
「防御魔法の効果には限度がありますから、過信はしないでくださいね」
今までに作れた魔道具の防御魔法の効果はまだ確かめられていない。
転んだ時には何ともなかったけれども、剣で斬れば大怪我をすることだってあり得るのよね。
「もちろん分かっているさ。ただ、俺の防御魔法の効果はそれほど高くないから、魔道具の方が強力ということもあるだろう」
「こればかりは試さないと何とも言えない。が、防御魔法はかけてみれば効果の想像はつく。
最低でも金貨二十枚は払うから、水の防御魔法を頼む」
「分かりました」
「今から作るから、今日は帰らせてもらう。
また明日、お会いしましょう」
こうして私達は二つの魔道具を作ることに決まった。
良い噂が広まればいいのだけど……。
少し不安でも、明日のことが楽しみで。
宿に戻るときは身体が軽くなった気がした。
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