11. 完成しました

 翌朝。

 朝食前にルイスの部屋を訪れた私は、衝撃的なことを聞かされた。


「この魔石なんだけど、魔力を流したら魔法が使えたんだ」


「どういうこと……?」


「こういうこと」


 そう口にしたルイスは、自ら足の小指をベッドの足に打ち付ける。

 気を違えたのかしら? そう思うと怖くて、彼から三歩離れる私。


「しっかり見て欲しい。今はちゃんと腫れているけど、この魔石に魔力を流すと……」


 その言葉に遅れて、ルイスの足が治癒魔法の淡い光に包まれる。

 するとあっという間に腫れが引いて、元の綺麗な足に戻っていた。


「魔法陣に触れさせたら、魔石が魔道具になるのね」


「そういうことだと思う。これを指輪に付けておけば、道具を出さずに色々な魔法を使えて便利だよ」


「確かに……何も考えなくても色々な魔法が使えたら、すごく楽になるわ」


 魔力を使うことに変わりはないから、魔力切れの心配はある。

 それでも、魔道具の可能性は無限大だわ。


「これを見たら、もっといろいろ試したくなってきたわ。

 早く朝食にしましょう」


 そうして宿で朝食を済ませ、私達はワイバーン討伐の依頼を受けてから町の外に向かった。

 今日もワイバーンはすぐに見つけられたから、ルイスと一緒に光の攻撃魔法を放つ魔道具を構える。


 早速、魔石を魔法陣に触れさせると、光の攻撃魔法がワイバーンを掠めた。


「魔道具だと狙いにくいな……」


「そうね……」


 当たらなければ当たるまで撃つだけ。そう思ったから、私は何度も魔石を離しては触れさせることを繰り返す。

 そうしていると数秒ほどで一体目に当たったみたいで、ワイバーンが地面に落ちていった。


 ルイスも私の真似を始めて、空に向かって沢山の攻撃魔法が飛んでいく。

 ドラゴン討伐の時のルイスの魔法もすごかったけれど、今はそれ以上に圧巻だわ……。


 けれども突然、攻撃魔法が放たれなくなってしまった。

 魔石の見た目に変化は無いけれど、魔力の気配が無くなっている気がする。


「魔力が切れてしまったみたい」


「俺の方も魔力切れみたいだ」


 今までワイバーンは魔法を躱し続けていたけれど、攻撃魔法が止まると一斉に私達の方に向かってきた。

 だから私もルイスも魔道具を離して、普段通りに攻撃魔法を使う。


 今度は一回目でワイバーンに当たって、魔物の姿は見えなくなった。


「大体三十回くらいで魔力が無くなるみたいだから、これでは使い物にならないね」


「使い捨てだといくらあっても足りないわよね……」


「魔石を触れさせたら回復するかもしれない」


 何を思ったのか、ルイスはそう口にすると依頼の分よりも多く集まった魔石を取り出して、魔力が尽きている魔道具の核に触れさせる。

 すると魔石が蒸発するようにして消えてしまった。


「魔力の気配が戻ったわ……」


「使えるか試してみるよ」


 ルイスが魔道具の核を魔法陣に触れさせると、魔道具から攻撃魔法が飛び出す。

 彼の予想は当たっていたみたいで、魔石を使えば魔道具を復活させられるらしい。


「これなら魔石さえあれば使い続けられるわ。箱が完成すれば、売り出せそうね!」


「まさかこんなに上手くいくとは思わなかったよ。頑張って材料代を稼がないといけないな」


 魔道具は形になりそうだけれど、お金の問題も簡単には解決できないのよね。

 だから、この日から私達は必死に依頼をこなすことに決めた。


 昼間は町の外に出て魔物の討伐、日が暮れてからは魔道具作り。

 幸いにもルイスが攻撃魔法で材料を色々な形に加工出来るから、道具には困らなかった。


 そんな日々を一週間ほど送った日の夜には、ついに一つ目の魔道具が完成した。

 といっても、私は魔法陣を描いただけで、ほとんどルイスのお陰だ。


「よし、これで完成だ」


「どうやって使うの?」


「ここがロックになっているんだ。使うときはここを手前に引いて、狙いを定めたらこの浮いている部分を押し込む。

 あとは、ここから魔石を入れられるから、魔力が切れる前にある程度入れておくと良いと思う」


「すごいわ。こんなに綺麗に出来るのね!」


「まだあるよ。ここのロックを外せば蓋を開けられるから、魔法陣を入れ替えられる」


「この防御魔法で試しても良いかしら?」


「もちろん」


 ここは宿の部屋だから、攻撃魔法のまま試すわけにはいかない。

 だから防御魔法の魔法陣を入れてみたのだけど、何回試しても魔法は発動しなかった。


「まさか、一度魔法陣に触れさせたら効果を変えられないのか……」


「そうみたい……」


 治癒魔法や解毒魔法で試しても結果は同じ。ルイスの言葉の通りだと思う。

 だから私は新しい魔石に魔力を込めて、ルイスが作った箱に嵌め込んだ。


「今度は成功したわ。でも、防御魔法は使い続けられた方がいいから、手を離してもそのままになると良いと思うの」


「それも出来るよ。押し込んだまま、ここを押すんだ。

 解除したいときは、もう一度ここを押して」


「すごい……こんなものを作れるなんて、ルイスは天才ね!」


 私にはこの仕組みが理解できないから、素直にルイスを尊敬したい。

 小さい魔法陣を使っているとはいえ、私の手のひらに収まる大きさだから、持ち運びにも便利だと思う。


「少し考えれば仕組みくらい理解できる。そんなことよりも、セシルの魔法の知識の方がよほどすごいよ。この大きさの魔法陣なんて、普通は描けない」


「そうかしら……?」


 ルイスは私を持ち上げてくれているけれど、やっぱり彼には勝てないと思ってしまう。

 でも、そんなことよりも魔道具が無事に完成したことが嬉しくて、いつまでも頬が緩んだまま戻らなかった。

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