10. 成功の光
「これで合っているのかしら?」
本に書いてあった通り、全ての属性の魔力を魔石に注ぐ私。
けれども、目に見える変化は何も起こらなかった。
魔力が吸われた感覚はあったものの、それだけだ。
「……何も起こらないな」
「失敗みたいね」
「いや、今なにか光ったよ」
諦めてもう一つの魔石で試そうとしていると、ルイスがそう口にする。
魔力を注いだ魔石に慌てて視線を戻すと、突然まばゆい虹色の光が放たれた。
「綺麗……」
「成功かもしれない。とりあえず、これで試してみよう」
光はすぐに消えてしまったけれど、魔石は今までの暗い色から明るい色へと変化している。
それをルイスが作った魔法陣に触れさせると、何もない場所から風が吹いた。
「成功だわ!」
「俺にも試させて」
「魔石、少し熱くなっているから気を付けて」
「分かった」
ルイスが試しても結果は同じ。
魔道具づくりは成功したみたいだ。
「これは世界が変わる大発見だよ。俺も試したいから、光の魔力だけセシルが注いでほしい」
「ええ。合図はルイスがお願い」
「分かった。この手を下ろしたら、魔力を注いで」
そう口にしてから少しして、掲げている手を下ろすルイス。
すると彼の手から光以外の魔力が魔石に流れはじめた。私もそれに合わせて光の魔力を注ぐと、魔石が一瞬だけ白く光る。
少し待つと魔石は虹色の光を放ったから、今回も成功しているはずだ。
「これも魔道具になっているね。問題は、セシルの魔力だから成功した可能性があるということだけだね」
「今まで誰も成功していないから、あり得ない話ではないのよね……」
こればかりは魔法が使える人を集めて実験しないといけないから、すぐに確かめることは出来ないと思う。
魔法自体は人なら勉強さえすれば誰でも使えるようになるけれど、平民は大抵一つの属性しか使えるようにならない。魔法には属性の適正があって、適正がないといくら努力しても無意味だ。
貴族であっても複数の属性を扱える人は多くない。
私のように全ての属性を扱える人は、先代の聖女様だけ。
光や闇属性を扱える人も珍しく、見つけるだけでも難しいのよね。
仮に見つけられても、その人が貴族なら、平民の私達に協力してもらえるとは思えなかった。
「試そうとした人が居なかったという可能性に賭けるしか無さそうだ」
「そうね……。でも、魔道具を作れただけでも大成功だと思うわ」
「ああ、間違いない。問題は魔道具を信じてくれる人が居るかどうかだな」
「ギルドに行けば欲しがる人は居ると思うのだけど、難しいかしら?」
詠唱をしなくても魔法が使えるようになる魔道具があれば、魔物との戦いで命を落とす人も少なくなると思う。
そうなれば、大切な人を亡くして悲しむ人も減るのよね。
きっと喜ぶ人も増えると思う。
お礼は期待していないけれど、幸せそうな人を見ていると私まで幸せな気持ちになれるから、人の役に立つことなら少しくらい無理しても大丈夫な気がした。
「いろいろな属性を必要とする冒険者が相手なら売れるかもしれない。もう少し数を揃えたら売ってみよう」
「まずは私達で使ってみて、効果を確かめた方がいいかもしれないわ。信頼を得るのは大変だけれど、失うのは一瞬だもの。欠陥品は絶対に売らないようにしなくちゃ」
「そういうことなら、まずは攻撃魔法の魔道具から作ろう。
闇属性と光属性は使えない人が多いから、欲しがる人が多いと思う。俺も光は使えないから、魔法陣からセシルにお願いすることになるが、大丈夫だろうか?」
「大丈夫よ。ルイスは闇属性をお願い」
そんな言葉を交わし、私達は夜遅くまで魔道具を作り続けた。
攻撃魔法に防御魔法、治癒魔法や解毒魔法まで。魔物と戦うときによく使われる魔法は殆ど揃えられたと思う。
途中からは鉄の板が少なくなって小さく作る羽目になったのに、防御魔法の魔道具の効果は魔法陣が大きい物と何も変わらなかった。
攻撃魔法は危ないから試せていないけれど、きっと効果は変わらない。
「――作りすぎた気がするわ」
「俺も同じことを思ったよ。流石にこの量は持ち歩けないから、明日は光魔法だけ試そう」
「そうね。
もう遅いから、今日は寝た方が良さそうね」
「ああ、そうしよう。おやすみ」
「おやすみなさい」
私達が作ったものは、魔道具といっても物語に出てくるような完成されたものではない。
魔道具の核に改変した魔石を、魔法陣に触れさせて使うだけ。
しっかりした魔道具にするためには、からくり箱のようなものを作らないといけないから、今日中に完成させるのは難しいのよね。
だから、ルイスとおやすみの挨拶を交わしてから私は部屋に戻った。
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