14. 戻らないために
服屋さんに入ると、色々なデザインの服が置かれていて、つい目移りしそうになる。
外套もすぐに見つけられて、私は白いものを手に取った。
黒色を選ばなかったのは、怪しまれそうだと思ったから。
白色の方が目立つけれど……変な疑いをかけられるよりはずっとマシだ。
「ありがとうございました!」
無事に外套を買い終え、それを被ってからお店の外に出る私。
そこにはルイス以外とさっきの四人組の姿があって、私はしばらく固まってしまった。
「……どういうこと?」
「彼らも一緒に公都に行くことになった」
「そうなのね。一緒に来るとは思わなかったから、驚いたわ」
今は立ち話をしている余裕はないから、足早に宿へと向かう。
幸いにも私の外套姿は目立たないみたいで、すれ違う人に注目されずに済んでいる。
「あの宿だ」
「分かった。すぐに馬車を持ってくる」
「ありがとう、助かる」
四人組の中で一番背が高い人の言葉に、そう返すルイス。
彼らは馬車を取りに行くみたいで、途中の十字路で分かれていった。
それから私達は宿を出る準備を済ませ、止まらない分の代金を返してもらってから外に出た。
準備はあまり時間をかけていなかったのに、目の前には簡素な馬車が停まっている。
「乗り心地には期待しないでくれよ」
「移動できれば十分だ」
「馬車があるだけでも十分ですから、気にしませんわ」
私達は馬車の荷台に乗り、背丈が一番高い人は御者台に上った。
「出発しても大丈夫か?」
「全員大丈夫だ」
四人組の中で言葉が交わされ、馬車が動き出しガタゴトと音を立てる。
乗り心地は良いとは言えないけれど、ノワール王国の追手から逃げられるのなら、全く気にならなかった。
「そういえば、二人の名前を聞いてなかったな」
「俺はルイスだ。」
そういえば、まだ彼らの名前も聞いていないのよね。
だから、私はルイスに続けて口を開いた。
「私はセシルといいます。よろしくお願いします」
「丁寧にありがとう。俺はヴィンセントで、こっちは姉のコンスタンスだ」
「ちょっと、私に何も言わせないつもり!?」
「いてっ。急に叩くことないだろ!」
「俺はフランクリン。呼びにくかったら、フランクと呼んでもいい。
御者台に居るのがアルベルト。彼が俺達のパーティーのリーダーだから、何かあったらアルに言ってくれ」
自己紹介をしているうちに馬車は門を抜けたみたいで、幌に開けられている覗き穴の外に緑が広がる。
無事に町を離れることが出来て、少しだけ安心した。
あの王家なら、他の町に依頼を出すとは思えないから、町の外に探しに来ている冒険者に見つからなければ大丈夫だと思う。
幸いにも、この馬車は幌で覆われていて、外から私の姿は見えないはずだ。
「……少し気になったんだが、セシルは俺達みたいに商家の生まれなのか?」
「それ、私も気になったわ。セシルさん、貴族と見紛うくらいに綺麗な所作をしているから」
「商家ではありませんわ」
「ということは、まさか……」
「貴族の生まれですわ。でも、今は身分を失っているので、皆さんと同じ立場です」
コンスタンスさんが言葉を濁していたから、私は答えを口にした。
この辺りの事情はルイスが話したと思っていたけれど、説明し切れていなかったらしい。
「同じ立場なら、敬語はやめて普通にお話したいわ」
「頑張ってみるわ」
今までずっと丁寧な言葉が当たり前で、敬語を使わないのは違和感があるのよね。
でも、今は冒険者として生きているから、貴族の常識は気にしないことにした。
「コンスタンスさんは商家の生まれなの?」
「ええ。でも、私とヴィンは跡を継げないから、自分で仕事を探さないといけなかったわ。
ヴィンは冒険者を目指していたから、私も一緒に目指すことにしたの。それと、私のことはコニーで大丈夫よ」
「正確には、姉さんが勝手についてきただけだよ」
「そ、そうなのね……」
コニー達も何か事情がありそうだけど、二人から暗い雰囲気は欠片も感じられない。
それに、軽口を叩き合っているところから、仲が良いことも想像出来た。
まだフランクリンやアルベルトこことは分からないけれど、全員信頼出来る人だと思う。
だから私が逃げている理由をしっかり説明した方が良い気がするのよね。
そう思った時。御者台から声が聞こえた。
「魔物の襲撃だ! 応戦するぞ!」
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