第25話 サイレン
街中にサイレンが鳴り響いている。
僕らは学校への道のりを歩んでいた。
「大丈夫かなあ……」
と心配を面に宿した真白が独り言をつぶやく。
「都市防衛隊は優秀だし、いたずらに怖がる必要もないと思うけどね」
僕は首を掻いた。
「そう、ですよね」
何年も昔、僕が小学生の頃のことだ。
その時に家族の大半を失った僕としてはこうした
「心配なら地下避難所へ立ち寄るのも悪くないよ。どうせ学校と避難所どっちが近いかは微妙な位置関係ではあるし」
「このままでも、大丈夫です」
強い意志で真白が見上げてくる。
「もしも最悪の事態が起こったら、そこらへんの
「わたし、そのときは戦います!」
「いい意気だけど、敵の数次第では逃走するのが正解だよ」
サイレンが止んだ。
真白が大きく息を吐き出す。
無理もない。
彼女もあの日あった他世界からの襲撃は経験しているはずなのだ。
僕は足を止め、空を見上げた。
青空から太陽が降り注いでいる。
再び視線を戻した時、真白は落ち着きを取り戻していた。
それどころか鞄の中からコンビニ袋を取り出し、さらに僕の写真が載っていたあの雑誌を取り出した。
「なんで、それを……いや、おかしいとは思ってたんだ。僕よりだいぶ後にコンビニから出て来たし」
「だって二位之先輩のことがここまで肯定的に書かれてる記事って本当に少ないんですよ?」
「そりゃそうだろ? 戦神がずっと昔から見守ってきた剣闘士たちの神聖な歴史の
それこそ戦神への
もちろん事実無根だ。僕自身は戦いに身を置く者として戦神フェアブレイミを尊敬している。
単純に行動や言動が駄目だっただけだ。
真白が真っすぐ見上げて来る。
「ああいうこと言わない方が……いいと思います!」
「そうだね」
僕たちは学校目指して足取りを再開する。
「で、なんでその雑誌をわざわざ?」
「わたしがテストでいい点数取った時とか、なにか表彰された時にかならず、おばあちゃんが思い出の品を残して取っておいてくれたんです」
苦々しい顔を浮かべるしかない。
「僕は君の孫ではないよ」
「冒険者パーティーは家族みたいなものなんだって本には書かれてました」
真剣な声色だった。
「家族ね……」
僕は問うた。
「君がこうして冒険者部を通して僕と関わる前の真白だったとして、それ以前の僕に抱いていた率直な感想を聞かせて貰ってもいいかな? 気になるし」
「苦手でした」
これには笑い返すだけだ。
「それなのに冒険者部に入った瞬間、僕らは家族になるわけだ? これはなかなかに傑作だね」
真白は頬を膨らませた。
「わたし、本気なんです!」
「好きなように頑張るといいよ。生き方は自由だし」
それから学校にある部室まで僕らは徒歩を進めた。
「それにしても、テスト期間の直前にダンジョン攻略をぶち込むなんてねー……はた迷惑な奴だよ不治野は」
「うう……思い出させないでくださいよう……テストのことなんて」
さっきの話が台無しだった。
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