第26話 大鎌


 部室で不治野と湖身と合流する。

 これから冒険者部全員で冒険者ギルドへ向かい、ダンジョンへ挑むことになる。

 上昇青葉高校は武器庫を備えている。

 そのため僕らは預かり窓口からそれぞれが預けた武器を受け取る。

 

 最後に校門から出て来た真白を目にした時、僕は吐き気がこみ上げてきた。

 しかしすぐに思い留まる。

 夕日が昇り始めた空の下、不治野が号令をかけた。


「行くぞお前ら! 真白、湖身! お前ら一年が先に、歩きやがれ! 俺と二位之は後ろから付いて行くからよ!」


「え? はい!」


「……了解、です」


 困惑する湖身となぜか気落ちしている真白が冒険者ギルドへ向かって歩き出す。


「ダンジョンについてからがいいんじゃないかな? こういう馬鹿みたいなノリで進むのは」


 首を掻きながら僕は不治野に苦言した。


「てめえ、まさかとは思うが、死神被害者か?」


 いきなりの問いかけに僕は黙り込む。


「先輩たちー! どうかしたんですかー!?」


 湖身たちはすでにだいぶ前方の方まで進んでしまっていた。

 遠くに離れたことでより小柄に見える真白。

 そんな彼女が背負っている大鎌を僕は流し見た。


「……あれに関して君はもう知ってたってわけか?」


 つぶやきながら僕は足を踏み出す。


「ああ」


 不治野も隣に並んでついてきた。

 車道をちらほらと車が通り過ぎて、歩道で足を進める僕らのことを追い越して行く。

 二葉市はすでに復興作業を終えており、一度は苛烈かれつな襲撃を受けた街の姿とは思えない程立派になっている。


 僕は淡々と言葉を落とす。


「九年前。オオバネ都市広域を襲撃した他世界からの侵略者、そいつらが信仰していた死神アザマサイハの所持していた大鎌。真白の背負っている武器を見ると、嫌でもあれを思い出す」


「死神が憎いか?」


「アザマサイハは憎いね」


 二人。

 死神を僕は見たことがある。


 一人は、都市を襲い、僕の両親の命を奪い取った悪の死神アザマサイハ。

 そしてもう一人。

 弟の命を救ってくれた正義の死神ラデスアトナ。


 あの時、僕は闇弥の命を救って貰う対価として僕自身が、今後の人生において必死に努力して手に入れる百億十コゼニカをラデスアトナへ支払う契約を交わしたのだ。

 もしも百億十コゼニカを僕が真面目に集める意思を失えば、すぐにでも闇弥の命をラデスアトナは回収しに再びこの地へ現れるだろう。

 それでも理不尽な死神アザマサイハと違って、ラデスアトナは本当に優しい死神だった。


 何故なら、百億十コゼニカを僕が本気で集めようとしていれば、道半ばで僕が亡くなろうと、闇弥の命は奪わないでいてくれるのだ。

 なんでも百億十コゼニカを懸命に手に入れようとし果てた僕の命を代わりとすることで満足してくれるそうなのだ。


「――真白の奴は、自分の意思であの獲物を選んだわけじゃねえからな?」


「どういう意味かな?」


「真白曰く呪いの装備らしいぜ?」


「……ダンジョンの亡骸の類なのかあの大鎌?」


「さあな? とにかく睨むのはもう辞めろ?」


 僕は首を傾げた。


「なんだ、気づいてなかったのかよ?」


 前方を歩んで行く後輩二人を不治野は見つめた。


「部長として命じるぜ? これ以上、あいつを怖がらせんな? 分かったな?」



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