第22話 掃除日和
警察から補導を受けた僕と不治野は翌日、休日にも関わらず職員室へと呼び出され、担任の結崎先生からお叱りの言葉を受けた。
そしてその日も含む休み期間を大人しく自宅謹慎で過ごすこととなり、瞬く間に週明けの学校登校日を迎えていた。
五月の一週目も終わり、四季のある四十九番目の都市、オオバネでは早ければそろそろ冬服を脱ぎ始める人間も出てくる頃だ。
もっとも大体の場合は六月初めが衣替えの季節ではあった。
僕らの世界では週初めのことをワヘドレオスと呼ぶ。
他世界に実在した最も古い勇者の名前であり、一週間である七日間にはそれぞれ一日目ワヘドレオスから開始し、以降を勇者パーティーの名前が埋め、六日目七日目に関してはワヘドレオスの生きた世界の神様の名前が入る。
かつて原初の魔王を打ち果たしたワヘドレオスたちの旅が、五日間の冒険日と二日間の休日で構成されていたことが色んな世界における現在の一週間の区切りとして受け継がれているのだ。
上昇青葉高校の校門前で朝早くから僕と不治野は箒を掃き続けていた。
僕らの着用している制服には『反省しています』という文字が記された紙が貼りつけられている。
登校してきた生徒たちがぎょっとして僕らに目を向けて通り過ぎていく。
「え!? 部長たちなにしてるんですか?」
道路の奥の方で姿が見えていた湖見が校門に辿り着いたのだ。
「あ? 湖身てめえ、見たら分かんだろ! 掃除だろうがッ!」
不治野が吐き捨てる。
「……あれ? 先輩たちなにしてるんですか……? もしかして修行ですか!」
今度は別方向の道から自転車に乗った真白がやってきた。甲高いブレーキ音が鳴った。
「修行じゃなくて、ただの掃除だよ」
僕は言葉を返した。
足音が響く。
「こいつらはねー、人様に迷惑かけたから罰を与えてやってるのよ」
と結崎先生が校舎のほうから歩いてきた。
「いったい、なにやったんですか?」
恐る恐る湖身が質問を投げかけた。
結崎先生は悪い笑顔で回答する。
「夜の公園で喧嘩してたらしいわよ? あんたらの部の先輩たちはね」
「修行ですけど?」
と僕は口を挟んだ。
「周辺住民に不安を与えて行う部活の練習があってたまるもんですか! ちゃんと反省なさい!」
「すみません」
面目もない。
正直頭が上がらない。
補導の際、結崎先生が僕を迎えに来てくれたのだ。
「アンタは?」
結崎先生は不治野を睨みつける。
「悪かったよ」
もう何度目にもなる僕ら対するこの件に関する結崎先生のお叱りであった。
「それから二位之、アンタね。
僕は訊き返した。
「もしかして機嫌が悪いんですか?」
「めちゃくちゃね。悪態つかれるくらいは覚悟しときなさいよ? 生徒に私的感情で接するなとは私も思うんだけどね。ただ今回に限ってはアンタが問題起こしたわけだし」
「これでも僕は赤大海先生や空野鳥先生と同じで、戦神フェアブレイミのファンなんですけどね」
「誰が信じるのよ、それ」
結崎先生の意見も一理ある。
けっきょくはあの時、不治野に言ったように僕もまた過去に囚われ続ける運命なのだ。
「……分かりました」
「うし、それじゃーね、ホームルームでまた顔を合わせましょう! さぼんなよー!」
結崎先生は校舎へ去って行く。
「部長、ボクも掃除、手伝いますよ?」
湖身が申し出た。
「わたしも手伝います!」
挙手した真白がピンク髪を揺らした。
箒で足元の葉っぱやらを払い除けながら、僕は鼻で笑う。
「あのさ、君たちは罰の意味って知ってる?」
湖身が首を傾げる。
「悪いことをしたから叱られている、ですか?」
不治野が怒鳴りつけた。
「俺らが自分でやらねえと意味がねえってことだっつーの! 邪魔なんだよ、お前ら! ほら、さっさと行けや!」
校舎側へ追い出されていく後輩たち。
彼らの背中へ不治野が声をかけた。
「放課後! 部室に全員で集まるからな! 遅れんなよ! いいな!」
それからずかずかと僕の元へ近づいて来てガンを飛ばす不治野。
「てめえもだぞ?」
「……はいはい」
と僕は投げやりに頷き返す。
はあ。
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