第12話 カップル感を出そう

 あーしは、水槽の前に立ち、魚を見て物憂げな表情を演出した。


「あーしたちってさ……」


「はいっ」


「この、ヒラメみたいだね……」


 水槽の中のヒラメを指差して言った。


 どう? これ、かなりカップルっぽくない?


 ルクスたその顔を見てみると……。


「あのですね、ポラリスさん……」


 ガチ目にテンションが下がっていた。眉を顰めて唇を噛んでいる。そして、まくしたてられた。


「ヒラメさんは、全然ロマンチックじゃありません! ポラリスさんは、わかっておりません!」


「ええー! ヒラメ君、かわいそうじゃない?」


「そうかもですが、ポラリスさんは自分がヒラメさんに例えられたいですかっ!?」


「それは……」


 ペラペラのお魚を見て考えた。


「……確かに、びみょいかも」


 めんご。ヒラメくん。


「やり直しです」


「うう……」


 水族館、難易度が高い。


 それからも、次から次へと水槽を練り歩き、ルクスたそに問いかけていったが、ダメだった。


「あーしら、マダコみたいだね?」


「違います」


「ダイオウイカみたいだね?」


「そうじゃありません」


「フサフサヒレナガチョウチンアンコウのヘッドライトトッピングみたいだね?」


「発光をドリンクみたいに言ってもダメです!」


 ルクスたその理想は高い。どんどん時間が過ぎるばかりだ。


「うーん。あーしには、水族館の才能がないのかもしれない……」


「す、すみません。少し言いすぎたかも」


 落ち込むあーしの背中をたそがさすってくれる。


「ううん。ルクスたそのテンションあげて……カップル感出したいんだ!」


「ポラリスさん!」


 ガッツポーズをして、あたりを見渡した。


 何がいいんだろう。


 ルクスたその言いたいことはわかる。変な見た目のやつに例えられるのは誰だって嫌だ。綺麗な魚、美しいクラゲとかの方がいいに決まっている。そしてそういうのは、辺りを見渡せばいっぱいいる。色とりどりの熱帯魚とか、不思議な形の貝殻とか……。 


 でも、なんか……あーしらに、そんなカッコいいやつは、似合わないような気がしていたんだ。サイキョーでカワイイ。そういうのはなんかないかな。


 そういうのは、なかなか見つからない。


 小悪魔系アイテムだって、お気に入りに出会うにはいくつも作る必要があった。


 ちょうどいいのはすぐには見当たらない。いろんなものの陰に隠れていて、すぐに見つからないからこそ価値があるんだ。


 ……ん、見つからない?


「あっ」


 あーしは気づいた。


 水槽の陰にいる魚。隠れていて、だからこそ見つけた時価値のある魚。


「あーしたち……」


 赤と白のしましまで、イソギンチャクの陰に隠れているカワイイ魚。水族館の人気者だ。


「クマノミみたいだね!」


 それを指さすと、ルクスたその表情が変わった。明らかにハッと目と口を開けたのだ。


 チャンスだ! ここで攻め切りたい!


「普段は隠れているけど……本当はかわいくて、誰よりも生きるのに一生懸命で強い……ルクスたそにぴったりだ!」


 そう言って、クマノミを見た。そう考えるとどんどんカワイイように見えてきた。水族館、ちょい楽しいかも知れない。


 でも、ルクスたそはどうだろう? お気に召すかな? ドキドキして見たら……。


「最の高です!」


 親指を立て、鼻血を出していた。


「たそー!」


 あーしは急いでハンカチをあてて鼻血を拭った。ハンカチでごしごしされながら、ルクスたそは語る。


「クマノミは行方知れずになった息子を取り戻すため、海から人里に上がることもある! 大海で、街で大冒険をする! そう古来より書物で言い伝えられています!」


「おお!」


 よくわかんないけど、その書物面白そう!


「パワフルなところ、カワイイところ、ポラリスさんにぴったりです!」


 ルクスたそはそう言ってくれて、ちょっと驚いた。


 ルクスたそがなかなか魚の例えを受け入れてくれなかったの……あーしのことを考えてくれていたからなんだ! なんか、嬉しいな。


「やった! やった!」


「やりましたね! やりましたね!」


 あーしはたそと、両手の指を絡ませ合って、ぴょんぴょん飛び跳ねていた。


 これでミッションコンプリート、かな?

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