神様系Vtuberの誕生
里予木一
神様系Vtuberの誕生
人類は発展した。
技術は進歩し、人々は豊かになり、少しずつ人工知能も普及してきている。
もはや神は必要な存在ではなくなった。
奇跡を願うほど、幼い存在ではなくなったのだ。
――それは同時に、滅びの道を辿っている側面もあるだろうけれど。
とにかく、人類という種にとって、神というものは、存在したとて、頼るべきものではない、という意識が強くなったのだ。
それが当の神様にとってどういう気持ちになるかと言うと。
「――寂しい」
黒髪の、少女のような外見をした神が、天界から地上を眺めて呟く。
「寂しいって……あんたね、子離れできない母親じゃないんだから」
少女神の隣に立つ、二十代くらいに見える女神がその呟きに応えた。
「だってさー、昔はあんなに何かって言うと神様神様って言ってきたのにさ。今じゃもう、お賽銭だって電子まねいだよ。ぺいぺい♪ って言われても受け取れんよこっちは。すまほないもん」
もちろんお賽銭を直接受け取っているわけではないが、そこに込められた信仰心を受け取っているわけで、スマホの電子マネー経由ではだいぶ希薄なものとなる。
「まぁね、寂しい気持ちもわかるけどさ。もうここまで発展したら、私たちができることなんて大してないんだから。あとは暴走した時に罰を与えるくらいじゃない?」
あらゆる理屈を解明し、奇跡だった事柄を自分たちで起こせるようになった人類は、もう少し時間が経過すれば、飛来する小惑星すらも撃ち落とせるようになるだろう。恐竜時代に起きた滅びも回避できるようになる。
「やだそんなん。嫌われちゃうじゃん。というか私はね。もっと話したいんだよ。昔はみんな色々教えてくれたし、何かあると神託を聞きに来たじゃない。こみゅにけーしょんを活性化させよう。神と、人との」
「そんなこと言ったって時代がねぇ。神様です、なんて言いながら神社に現れたらヤバいやつ扱い……あ、そういえば」
「え? なになに。やっぱりえすえぬえすを活用するべき?」
「いや、SNS上で私は神だ、なんて名乗ってる奴は普通即ブロだよ。――でも、割と近いかも」
女神は手に持っている端末で何やら調べている。……彼女は人類の進化に対して肯定的で、様々な道具を使いこなしていた。どういう理屈かは不明だがインターネットにも接続できるらしい。
「なになに? らいんで神託送ればいい?」
「ヤバイ企業アカウント扱いされるだけだよ。……えーっと、これこれ」
少女神はタブレットの画面をのぞき込む。そこに映っていたのは――。
「……ぶいつべぁ? 女の子がいっぱい」
「……あんた、もうちょい英語読めるようになりなよ。このグローバル神界に適用できてないよ。この人たちはね、Vtuber。バーチャルユーチューバー。つまり、仮想空間で活動する、配信者のこと。あんたさ、Vtuber、やってみない?」
「わ、私が配信!? …………よし、やろう! わからんけど、なんかこう、人間と! 話したいから!」
「オッケ! 準備しよう! そうと決まればモデル作りから……」
なんだかよくわからないけど、久しぶりに楽しいことが待っていそうだと、少女神は笑った。
◆◇◆◇◆◇
「こ、こん
PCとカメラ、ディスプレイと各種機材の並ぶ机の前で、月詠あまてと名乗った少女は話し始める。もちろん偽名だ。ちなみに神様的にはだいぶ恐れ多い名前なのできちんと上長に許可をとっている。
ディスプレイにも自身の姿が映っているがこれは今の自分の姿を『Vtuberらしい』見た目に書き換えてもらった感じなので、あまり違和感はない。色々設定も考えようと思ったのだが、どうせボロが出るからと素の姿勢で配信してみることにした。
ちなみに挨拶に関しては女神から『堅苦しい』という意見ももらったが語呂が良いので採用することにした。あまて自身は気に入っている。
「さて、ではこれから人間どもに私からのありがたい神託を届けるので謹んで聴きなさい。……え? 偉そうだからやめろ? あぁごめんごめんちょっと介添人から苦言がね……えーっと、人間どもが良くない? なるほど。でも堅苦し過ぎるのも良くないでしょ、人間さん。お人間さんたちー、とかは? あ、それはもう使われてるの。なるほど、難しいね……」
ちなみにどういう手段でプロモーションしたのかは知らないが、百人程度があまての配信を見ているらしい。企業に所属していないVtuberの初配信としてはかなり多いのだが、彼女自身はピンときていない。それどころか自身の声を聴きに集まった人数としては少なすぎるとさえ感じていた。
「オリジナリティも大事だもんね。えーでは……こほん。日の国の民よ、私の言葉を聞いてくださいね? え? 海外から見てる場合もある? ……よしめんどくさい! 呼び方はおいおい考えます。さぁ人の子たちよ! とりあえずお話しましょう! ということで自己紹介を」
面倒になったあまては早々に話を進めていく。女神に作ってもらったプロフィールをもたもたしながら画面に映した。
「えーっとね、まず年齢。千から先は覚えていません。ただ私の知る昔の情報をお話するとね、なんかでっけぇお墓を作っていたね。酔狂! あと身長はね、五尺くらい。わからん? 浅学! まぁあれよ、最近の子からしたらちょっと小さいよたぶん」
一応、少しずつコメント欄を読み取る余裕が出てきたが、なにせ配信のコメントは独特で端的な内容が多い。あまては内容の半分も理解できていなかった。
「みんななんで草って書きこむの? 何かの忌み言葉? 待って。当てる。神様を舐めるな。……わかった、アレだ。あの幸せな気分になるという草。昔も儀式とかでいっぱい使われてたよねーうんうん。……え? ダメ? なんで? あーかいぶが消える? とりあえず草の話はダメと。……了解。えー、今ちょっと介添から注意が入ったので以後草は禁止です。ちゃんと私にわかりやすく! 伝えなさい!」
コメント欄に『こいつやべぇ』という書き込みが目立つようになってきたのであまては軌道を修正する。
「趣味とか特技はあんまりないんだ。ただ、私はみんなと話がしたくてさー。ちょっと人の子ら、ちゃんとお参りとかしてる? ちょっと神離れ進んでない? まぁねー今色々便利だしねー、神様より、えーあいに聞く方が便利じゃん、とか思ってるんでしょ。まぁとはいえね、神託も捨てたもんじゃないよ? 悩んだ時にいい指針になるかもよ? ということでね。ということで、これからは人の子らとのお話が趣味です。みんな付き合え」
コメント欄は戸惑いこそあったが、さすが現代の子、順応性が高い。任せてー、いつでもどうぞー、よろしくーといった声が上がる。
「まぁとはいえね。私は現代のこと全然知らんもんだから、まずは色々聞かせてほしい。現代のことを学ばないと適切な神託はできんからね。うん。じゃあまず最近の流行りを教えてくれ。……がんだむ? なにそれ。白い巨人? あー知ってる知ってる。アレだ。北欧の神。そっちに住んでる神から聞いたことある。飲み会で。え? 違うの? 機械? 機械仕掛けの神ってのもいるらしいけどその類? ちょっと詳しく説明して」
現代のことを全く知らないあまてに対し、コメント欄が色々教える、という時間が展開された。神託とは全く別の形ではあるけれど、これが今の、人と神のコミュニケーションらしい。そうして、時間はあっという間に過ぎ、月詠あまての初配信は、大盛況で幕を閉じた。口コミで人が集まった結果、最終的には三百人以上が見ていたらしい。
「人の子らよ、今日の神託はこれで終わりー。すーぱーお賽銭ありがとう! また会いましょうー、おつ神ー!」
◆◇◆◇◆◇
「で、どうだった?」
「んー、ちょっと疲れたけど、すっごく面白かったよ。数百年分の人との会話をいっぺんにしたような気持ち」
少女神の言葉に、女神は微笑む。
「なら良かったじゃん。もう寂しくはなくなった?」
「うーん。寂しい、とは違うんだけど、変化は凄く感じたかな。あぁみんな、大きくなったねぇ、というか……いろんなことを当たり前に知ってるし、そもそもみんな文字が読めて書けるの、すごいねぇって」
「……相変わらず目線がお母さんだね。まぁでも、いい体験だったか。――どう、またやりたい?」
女神の問いに、少女神は拳を握った。
「もちろん。今度はもっと勉強して、色々話せるようにもなりたいし、あとげーむもやってみたいし、地上の食べ物とか、玩具とか、触れてみたいものがいっぱいある! やりたいことだらけだもの」
「じゃあ続けるか、神様Vtuber」
「やるやる。取りあえずさ、げーむ買ってきてよ。私でもできそうなやつ」
「おけおけ。神ゲーいっぱいあるよ。教えてあげる」
「神げー? 神様が主役?」
「あー……そういうのも、ある。うん。見せるわ」
神が人に教える時代は終わった。でもそれは悲しむことじゃない。
今度は神が、教えてもらう番だ。
神が生み出した世界で育った子供たち。彼らが生み出したあらゆるものを、今度は神が享受しよう。
それが、新たな関係性。神の言葉はインターネット上で聞ける時代になったのだ。
「あと、えーえすえむあーる? やってって」
「神託ASMR……新しいけど……耳元で『世界、救っちゃえ♥』とか言うの?」
「ええキモ。……やだなぁそれ」
「いや……でも、神託ボイス、とか囁きASMRとか、結構商売になるかも……神社で売るか」
「だったらさ、歌とか踊りとかの方がいいな。神事らいぶいん日本武道館」
あらゆるものがコンテンツになる時代、もしかしたら神すらも、そうなるのかもしれない。
とりあえず今言えるのは、神様だってVtuberになれるってことだ。
神様系Vtuberの誕生 里予木一 @shitosama
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