新人編集者山城と心霊マンション(1ー3)
背の高い山城には少し窮屈なパイプベッドに寝転がり、雨の音を聞く。
そういえば、あの日も雨が降っていた。
バイト終わりに寄った定食屋での出来事だ。
「就職が決まったよ」
操山出版で山城の先代アルバイトであり、就職活動をしながらライター兼編集者として出入りしている米田が言った。
いつものことだが、自分のことなのに口ぶりはまるで他人事のようだった。
「おめでとうございます!」
山城は祝いの言葉を口にしたが、寂寥感が確かな形を持って自分の中に現れたのもわかっていた。
操山出版に編集者として残ってはくれないということが確定した瞬間でもあったからだ。
「なんの仕事するんですか?」
「ゲーム会社。総合職で入ったからどこに配属になるかはわかんないけど」
「そうですか」
「まぁ、ゲーム好きだし、どんな部署でもそれなりに楽しくやれるだろ」
米田は既に食事を終え、山城が食べ終わるのを待っていた。
彼は痩せぎすで不健康そうな風貌をしている。しかし、意外にも早食いで山城が先に食べ終わることはなかった。
「社会人になってもライター仕事は副業で続けたいとは思ってるんだ」
「本当ですか?」
「でも今よりももっと操山出版に行くことはなくなるのは確かだな」
「ですよね」
米田はまるで煙草のように爪楊枝を咥える。
「お前のことが心配だよ。ミスばっかりだし、ちょっと叱られたくらいですぐ泣くし、オカルト本作ってるのにホラー苦手な臆病者だし」
「いや、叱られても泣いてはないです」
「そうか、泣いてはなかったか。まぁ、ともかくお前がしょうもない奴なのは事実だろ」
「まぁ、そうですね。恥ずかしながら」
否定はできなかった。
「それにお前もそろそろ就活の時期だろ?」
「はい」
「山城が操山出版に就職するのか出て行くのかは知らないけどさ、今度はお前が次のバイトに先輩として仕事を教えたり、背中を見せていく番なわけだよ」
山城はそう言われて、米田がいつまでもいてくれて、自分がずっと甘えた後輩でいられると心のどこかで思っていたことを自覚した。
「そうですね……そうですよね」
「僕の真似をする必要はないけど、山城は山城なりのやり方でちゃんと後輩を助けてやれよ」
「はい。俺、頑張ります」
その時、山城は自分に後輩ができたら米田のように助けてやろうと決心したのだった。
――今の俺はまだまだ先輩みたいにはできてないな。
それでもこの単身赴任でマンションや一帯の怪奇現象の謎を解き明かして、良い本を作ることで小野寺に先輩として背中を見せてやりたいという気持ちは強く持っていた。
――俺にだってできるはずだ。
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