第11話 再開への道
夏休みが始まって数日が経った。
暑さが増す中、佐藤芽衣は心の中に重い雲を抱えていた。
高橋莉奈と連絡が取れない日々が続き、彼女の安否を案じる気持ちが強くなっていた。
ある日、芽衣は意を決して以前書いた手紙を莉奈の家に届けることにした。封筒には自分の想いと連絡先が書かれている。
「これで少しでも莉奈に届けばいいんだけど…」
玄関ポストに手紙をそっと入れた後、芽衣はしばらく家の前で立ち尽くした。しかし、何も起こらないことを悟り、重い足取りでその場を後にした。
数日後、芽衣のスマートフォンに見知らぬ番号からの着信があった。
「もしもし、芽衣です」
「…芽衣、私、莉奈」
突然の電話に芽衣は驚きと喜びで胸がいっぱいになった。
「莉奈!大丈夫だった?ずっと心配してたんだよ!」
電話越しの莉奈の声はどこか弱々しかった。
「ごめんね、連絡できなくて。スマホを取り上げられてて、今日やっと少しだけ借りられたの」
「そうだったんだ…でも声が聞けて本当に嬉しいよ」
「芽衣、私もう音楽ができないかもしれない」
芽衣は息を呑んだ。
「どういうこと?」
「お母さんに音楽を禁止されて、ピアノのレッスンも辞めさせられた。もうあなたとも会えないって…」
「そんなのひどいよ!何とかできないの?」
「私も色々話してみたけど、全然聞いてもらえない。それに…お母さんの言ってることも少しは分かるから」
「莉奈…」
沈黙が流れる中、芽衣は強い決意を込めて言った。
「待ってて、私が何とかするから!」
「でも、どうやって…?」
「先生にも相談してるし、みんなで力を合わせればきっと道が開けるよ」
「芽衣、無理はしないで。でも…ありがとう」
「無理じゃないよ。莉奈は一人じゃない。一緒に頑張ろう」
「…わかった。信じてるね」
通話が終わると、芽衣はすぐに動き出した。音楽の山本先生に再度相談し、学校として何かできることがないか模索することにした。
翌日、山本先生から連絡が入った。
「芽衣さん、ちょっと良い知らせがあるの」
「本当ですか?」
「莉奈さんのお母さんとお話しする機会ができたの。今度、学校で面談をすることになったから、あなたも同席してくれないかしら?」
「もちろんです!ありがとうございます!」
指定された日に、芽衣は学校の会議室に向かった。そこには山本先生と、少し緊張した面持ちの莉奈の母親が座っていた。
「今日はお時間をいただきありがとうございます」
山本先生が丁寧に挨拶をすると、母親は軽く会釈した。
「娘のことでご迷惑をおかけして申し訳ありません」
芽衣は緊張しながらも口を開いた。
「初めまして、佐藤芽衣と申します。莉奈さんとは音楽を通じて仲良くさせていただいています」
母親は芽衣をじっと見つめ、その視線に一瞬たじろぐ。
「あなたが芽衣さん…。娘から話は聞いています」
山本先生が話を続ける。
「高橋さん、今日は莉奈さんのこれからについてお話ししたくてお呼びしました。彼女は音楽に大きな才能と情熱を持っています。それを伸ばしてあげることは、将来にとっても良いことだと思うのです」
母親は少し困ったような表情を浮かべた。
「ですが、前の学校でのトラブルもありましたし、私は娘には安定した道を進んでほしいと考えています」
芽衣は勇気を振り絞って言葉を続けた。
「お母様、私は莉奈が音楽をしているとき、本当に生き生きとしているのを知っています。彼女の音楽は人の心を動かす力があります。どうか、その才能を閉じ込めないでください」
母親は黙ったまま考え込んでいる。
「娘にとって、音楽はそんなに大切なものなのかしら…」
その時、ドアが開き、莉奈が息を切らしながら入ってきた。
「お母さん!私からも話をさせてください!」
「莉奈…どうしてここに?」
「お願いだから、私の気持ちを聞いてほしいの」
山本先生が場を和ませるように微笑んだ。
「せっかくですから、莉奈さんの話を聞いてあげてください」
莉奈は深呼吸をし、真剣な眼差しで母親を見つめた。
「お母さん、私は音楽が好きです。そして、それを通じて多くの人に感動を届けたいと思っています。過去のトラブルは、確かに私の未熟さもあったかもしれない。でも、今は芽衣や先生たちのおかげで、もう一度頑張りたいという気持ちが強くなっています」
母親は静かに娘の言葉を聞いていた。
「勉強もちゃんと頑張ります。だから、音楽を続けることを許してほしいんです」
芽衣も続けて言った。
「私も一緒に頑張ります。二人で支え合って、夢に向かって努力します!」
母親はしばらく沈黙した後、深いため息をついた。
「二人とも、真剣なのね…。私も、あなたがそんなに強い意志を持っているとは思わなかったわ」
莉奈は緊張しながら答える。
「お母さん…」
「でも、一つだけ条件があります。勉強もしっかりと取り組むこと。そして、何か問題が起きたらすぐに相談すること」
莉奈の顔がぱっと明るくなった。
「本当?ありがとう、お母さん!」
芽衣も嬉しさを抑えきれずに微笑んだ。
「ありがとうございます!私も全力でサポートします!」
山本先生も安心した表情で頷く。
「これで一件落着ですね。高橋さん、娘さんを信じてあげてください」
母親は少し照れくさそうに答えた。
「娘のためですものね…。芽衣さん、これからも莉奈のこと、よろしくお願いします」
「はい!お任せください!」
面談が終わり、廊下に出ると、莉奈は芽衣に向かって深くお辞儀をした。
「芽衣、本当にありがとう。あなたがいてくれたから、私はここまでこれたよ」
芽衣は首を振りながら微笑む。
「礼なんていらないよ。友達でしょ?」
二人は顔を見合わせて笑い合った。
「これからまた一緒に音楽ができるね」
「うん、たくさん新しい曲を作ろう!」
夏の日差しが校舎を照らし、二人の未来を明るく照らし出しているようだった。
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