第12話 心の迷い
秋も深まり、学校の木々は美しい紅葉に染まっていた。
冷たい風が吹き始め、生徒たちは冬の訪れを感じていた。
佐藤芽衣と高橋莉奈は、市の音楽コンクールで優秀賞を受賞したことで、自信と喜びに満ちていた。しかし、その一方で新たな目標を見つける必要性も感じていた。
放課後の音楽室。二人は次のステップについて話し合っていた。
「芽衣、次は全国レベルのコンクールに挑戦してみない?」 莉奈が少し躊躇いながら提案すると、芽衣は目を輝かせた。
「全国コンクール!?すごいね!でもレベルも上がるし、簡単じゃないよね」
「うん。でも、もっと成長したいし、自分たちの実力を試してみたいの」
芽衣は少し考えてから、力強く頷いた。
「よし、やってみよう!一緒ならきっと乗り越えられるよ」
二人は新たな目標に向かって練習を開始した。しかし、全国コンクールへの挑戦は想像以上に厳しいものだった。難易度の高い曲を完璧に演奏するためには、今まで以上の努力と時間が必要だった。
数週間が過ぎ、二人の練習はますますハードになっていった。そんな中、芽衣はふとした疲労感を感じ始めていた。
「最近、少し疲れてるみたいだね」 放課後の帰り道、莉奈が心配そうに声をかけた。
「ううん、大丈夫だよ。ただ、ちょっと睡眠不足かな」 芽衣は無理やり笑顔を作った。
実は、練習時間の確保と勉強との両立が難しくなっており、芽衣の成績は少しずつ下がっていた。家では両親から勉強に専念するように言われ、プレッシャーを感じていた。
ある日、芽衣は家で母親に呼び止められた。
「芽衣、最近成績が落ちているけど大丈夫?進路のことも考えないといけない時期よ」
「ごめんなさい。音楽の練習で少し忙しくて…でも、これからはもっと勉強にも力を入れるから」
母親は優しく芽衣の手を握った。
「音楽も大切だけど、将来のためにバランスを取ることが大事よ。無理しすぎないでね」
「うん、わかってる」
翌日、学校で芽衣は莉奈に打ち明けた。
「実は最近、勉強との両立が上手くいってなくて…家でも心配されちゃった」
莉奈は申し訳なさそうに眉を寄せた。
「ごめんね、私が無理なお願いをしてしまったのかも…」
「そんなことないよ!私がもっと上手に時間を使えればいいだけだから」
しかし、芽衣の不安は日に日に大きくなっていった。練習中もミスが増え、自分に苛立ちを感じるようになった。
「どうして上手くいかないんだろう…」 音楽室で一人、芽衣はピアノの前で頭を抱えた。
その様子を見ていた莉奈は、静かに彼女に近づいた。
「芽衣、少し休憩しようか。無理をすると逆効果だよ」
「でも、時間がないよ。もっと練習しなきゃ」
「大切なのは質だよ。お互いにリフレッシュする時間も必要だと思う」
莉奈の言葉に、芽衣ははっとした。
「ごめんね…。私、自分のことばかりで周りが見えてなかったかも」
「大丈夫。私も同じように焦ってた。だから、一緒にもう一度やり方を考え直そう?」
二人は机に向かい、これからの計画を立て直すことにした。
練習時間を見直し、効率的に取り組むこと
週に一日はお互いの好きなことをするリフレッシュデーにすること
困ったときはすぐに相談し合うこと
計画を立て終えると、芽衣は少し表情が明るくなった。
「なんだか気持ちが楽になったよ。ありがとう、莉奈」
莉奈も優しく微笑んだ。
「私たちはチームだからね。一人で抱え込まないで」
それからは、二人は無理をせずに練習と勉強を両立させる方法を模索した。お互いに励まし合いながら、少しずつ自信を取り戻していった。
ある日の放課後、二人は久しぶりに街へ出かけることにした。カフェでお茶をしながら、他愛のない会話を楽しむ。
「このケーキ、美味しいね!」 芽衣が嬉しそうに言うと、莉奈も頷いた。
「本当だね。こんな時間も大切だね」
そのとき、店内に流れてきた音楽に二人は耳を傾けた。昔懐かしい曲が優しく響いている。
「この曲、懐かしいね」 芽衣が目を閉じて聴き入る。
「うん。初心を思い出すね」
二人は改めて音楽の素晴らしさや、自分たちが音楽を愛する理由を再確認した。
「やっぱり、音楽が好きだなぁ」
「私も。これからも一緒に音楽を楽しもう」
「うん、絶対に!」
こうして、心の迷いを乗り越えた二人は、新たな気持ちで全国コンクールへの準備を進めていくのだった。
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