第96話 ボス
三週間の施術を終えた美咲。
変化はすぐにやってきた。
「…………」
いつホクロは消えるのかと、毎日のように確認していた。
その日がついにやってきたのだ。
「わあああああああああんっ!!」
美咲は部屋で一人、大声で泣いた。
自分の大きなコンプレックスがなくなり、感情が爆発した。
これで何も気にすることなく水着だって着れるし、着替えの時も気にする必要がなくなる。
ずっと悩んできたホクロがなくなり、感動に打ち震えた。
「嬉しい……嬉しいよぉ……。高梨……高梨……っ」
感謝の感情が向いた相手。
弘世の名前を呼びながら、美咲は大粒の涙を流していった。
その日のホームルーム前。
美咲は弘世を朝練後の部室に呼んでいた。
部活を終えたばかりだったので、室内には汗と制汗剤の匂いが充満していた。
既に制服だった美咲は弘世と二人きりになった瞬間、抑えきれない衝動をぶつけた。
「高梨っ!」
「わっ」
弘世の顔を見た瞬間、感情が爆発し、思い切り抱きついたのだった。
「ほんとに消えた! ほんとに消えたの! ホクロがないのっ! 嬉しい、嬉しいょぉっ!」
「良かった。本当に良かったね……」
「うんっ、うんっ……私が私じゃないみたいで……もう、どうにかなりそう」
美咲は勢いで弘世にキスをした。
弘世は肩の力が抜け、短いそのキスを受け入れた。
「見て……?」
キスを終えた美咲は、制服のスカートをめくった。
ひらりと視界に水色のパンツと日焼け跡が見えた。
そして太ももの付け根には、主張が強かった黒いホクロが見る影もなく、本当にそこにあったのかというほど、何もなかった。
「すごい、綺麗だね」
「高梨の、おかげ……」
「うん……」
「これで、高体連、本気で望める」
「楽しみにしてるね」
「……絶対に、リリーに勝ってやるんだから……!」
これで憂いはなくなった。
高校最後の高体連。まだ他にも大会はあるが、ホクロが消えたことで美咲は燃えていた。
ただ、リリーだって美咲と近い変化があった。
なぜなら、ヘルニアが完治していたのだから。
「俺は早瀬さんの方に味方してるから。クラスメイトだしね」
「ふふっ、ありがとう。でも、リリーだってヘルニアがなくなったんだし、これまで以上に強くなってるかも」
「それでも、勝ってきてね」
「……高梨はズルいなぁ……そんなこと言われたら、勝つしかなくなるじゃんっ」
美咲はもう一度弘世をぎゅっとしたあと、時間をずらして二人は教室に向かっていった。
◇ ◇ ◇
関東大会、準決勝。
早瀬美咲VS深澤・リリー・春奈。
県大会上位の成績を収めた美咲は関東大会に進み、現在はベスト四以上を決めていた。
つまり、はじめて全国大会出場の切符を掴んでいたのだ。
しかし美咲はまだ喜んではいなかった。
次の相手は、あの宿命のライバル・リリーだったのだから。
「ミサキ、全国決めたからって、ここは譲れないよ!」
「リリー……やっぱり調子いいみたいだね。試合少し見てたけど、よく腰が動いてるし」
「でしょ〜! だから絶対に負けない」
「私だって、高梨に勝利をプレゼントしないといけないんだから……っ」
二人の交差する視線はバチバチだった。
そうしてはじまる準決勝。
試合はタイブレークに持ち越されていた。
「はぁ、はぁ……リリー、やっぱり強い……っ」
ベンチでのブレイクタイム。
美咲は水分補給しながら、同じく休むリリーへと視線を送っていた。
「……ミサキ。やるようになったね……私をここまで追い込むなんて……!」
リリーも同様に美咲に対して、力を認めるような発言をしていた。
今までこんなにも追い込まれたことはなかった。二人には実力差があって、拮抗することはなかったから。
しかし今、それが覆されそうになっていた。
「でも、今日の私は最強だよ。なんて言ったって、腰が最強だから!」
二人はベンチから立ち上がり、タイブレークへ向かう。
先に七ポイント取った方が勝利。
試合は6−6のデュースまで続いていた。
先に二点取ったほうが勝ちだ。
二人の声がコート上に響く。
絶対に負けたくないという意思が、会場全体に広がる。
どちらも美人のため、テニスの実力以外にも注目の的だった二人。
点が入る度に拍手が起き、プロテニスの試合のように、盛り上がっていた。
そして――
「あっ…………負けちゃったね」
「あぁ……」
観客席から試合を見ていたのは、ひびきと弘世だった。
この日、二人に観に来てほしいと言ったのは美咲だった。
だから弘世はひびきを伴って、試合会場に足を運んでいた。
試合を終え、戻ってきた美咲。
この日はじめて、弘世と対面した美咲の顔は晴れやかだった。
そしてひびきと初対面を果たした。
「負けちゃった……ごめんね。あんなに応援してくれたのに」
「ううん。カッコよかったよ。それに、全国出場、おめでとう」
「高梨…………っ」
その言葉を聞いて、美咲の感情は決壊した。
テニスでの勝ち負けではない。弘世からの言葉が嬉しくて涙を流したのだった。
「ご、ごめんなさい……林道ひびきさん、ですよね?」
「うん。私のことはひびきで良いよ、私も美咲って呼ぶから」
「あ、ありがとう……」
美咲はひびきを連れてこさせたは良いが、どう話していいかわからなかった。
「あっ、あの――」
「弘世のこと、好きになったんでしょ?」
「えっ……」
美咲は謝罪から入ろうと思った。
しかしひびきの言葉に遮られ、そして思いもしなかった言葉が告げられた。
「顔見ればわかるよ。施術での一過性の性欲じゃないってことはね」
「あ……いや……私は……っ」
「本命は譲れないよ。これは当たり前。それに、弘世のことが好きな人、たっくさんいるから」
「そう、だよね……」
真実を告げる。
これまでに弘世に施術を施されてきた人は両手の指では数え切れない。
そして、施術する度に、弘世に好意を寄せる人が増えていくのだ。
ただ、ひびきはボスだった。
ボスとして、弘世のギフトを受け入れており、部下たちにも恩恵を与えている。
「それでも良いっていうなら――弘世のこと、一緒に幸せにしよう」
「え?」
「最近の弘世、性欲が強くてね。私たちだけじゃ相手できないの。だからたまには味を変えてあげないと」
「ええと……」
「ふふっ、弘世とえっちやデートくらいなら、しても良いよ。美咲ちゃんが何番目の人になるのかは、私も把握してないけどねっ」
「あは、あはははは…………」
美咲は苦笑いした。
弘世には本命彼女以外にも現在進行系で、えっちなことをする相手は複数いた。
美咲は今この時はじめてそれを知ったのだった。
普通ならおかしいと思う。
でもギフトのことを知り、弘世の性格を知り、ひびきという懐の深いボスを知り、はじめて好きという感情を理解した今、美咲は不思議な感覚に陥っていた。
「弘世ってね、なぜか彼氏を作ったことがないみたいな人ばっかり引き寄せるんだよね。だからまあ、一度こうなったら、弘世以外の人は見えなくなっちゃうから、覚悟しておいてね」
「えっと……うん」
「美咲が良ければ、今度弘世のことが好きな友達紹介するからさ」
「……うん! それはぜひ! だって、皆悩みを抱えていた人、なんだよね?」
「そうだね。私は美咲ちゃんの悩みがなにかは知らないけど、他の皆も同じだよ。辛くてどうしようもなくて、人にだって話せない悩み。それを解決してくれたのが弘世の特別な力……好きになっちゃうよね」
美咲は何度もひびきの言葉に頷いた。
そして二人は握手を交わし、弘世のハーレムにまた一人新しい女の子が加わったのだった。
その日、関東大会で堂々優勝したのはリリーだった。
美咲にタイブレークで勝利して以降、決勝の相手にはほとんど点を取られないまま圧勝してしまった。
腰を回復させたリリーの実力は、とんでもないものだったのだ。
「ヒロセー!! ぐえぇっ」
優勝トロフィーを持ったリリーが弘世を見つけると、飛び込もうとした。
しかしそれを止めたのは美咲だった。
「彼女のひびきがいるでしょ! バカ!」
「あうぅ……痛いじゃんかー!」
「ふぅん。この子がリリーね」
ひびきは先程の美咲とは全く違う態度をとった。
まさにその風格はザ・ボスだった。
「えっと……深澤・リリー・春奈……ですっ!」
「あなたのことはよーく聞いてるよ。スポーツみたいに力任せにセックスする女の子だってね」
「なぁっ!?」
ここはまだテニス会場。
リリーはこんな場所でシモの話をすると思っていなかったのか、少しだけ慌てふためいた。
「弱点だって、全部聞いてるよ。だからさ――」
ゴクリとリリーは息を呑んだ。
「落ち着いたら、皆でホテルに行って、リリーを気持ち良くしてあげる♪」
リリーを品定めするようにじゅるりと舌なめずりしたひびきは、弘世の腕に絡みつきながら、そう告げた。
「ミサキー! ヒビキがいじめるー! 助けてぇ!」
「ちょっ、なによ。くっつかないでよ!」
「だってぇ……!」
リリーは美咲に腕を絡ませて、ひびきを怖がった。
本物の彼女を目にしたからか、あまり強くは出れないようだった。
「ふふ、これから楽しみだね、リリー?」
「イ……イエス、ボスっ!!」
リリーは口だけでも、ひびきをボスとして認めたようだった。
そうして、美咲とリリーの抱える悩みは無事に解決し、彼女たちは全国大会へ向けて、また練習に励んでいくのだった――。
――――
実ははじめてカクヨム運営から警告を喰らっていました。
おそらく問題だった前回の話を修正し、既に警告は解除されています。
誰かが通報したのか、もしくは運営が見回っていたのか。
ともかく今は問題ないので本作品は公開停止になることはありません。
引き続きよろしくお願いします。
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