第97話 王子様

「あきら、久しぶりー! 身長も伸びて、すっごいイケメンになってる……!」

「ひびき先輩、お久しぶりです! 先輩こそ、とっても綺麗になっててびっくりしましたよ!」


 この日、ひびきは中学時代の後輩と、久しぶりに顔を合わせていた。


 もともと交友関係の広いひびきは、鈴川葵をはじめとして、数多くの後輩と交流がある。そんな彼女が今日呼び出されたのは――ある意味でその中でも特別な存在だった。


 待ち合わせ場所に現れた人物は、すらりとした高めの身長に、金色に近い明るい髪を短く整え、中性的な顔立ちをしている。そんな彼の持つ甘いマスクは、通りすがる女性たちの視線を惹きつけてやまない。


 それが駿河晶するがあきら

 陸上競技の短距離走で名を馳せ、いつしか周囲からは陸上の王子様とも呼ばれるようになった人物だった。


「並んで歩くと、私たちって恋人同士に見えるかな?」

「ひびき先輩、冗談はやめてくださいよ。先輩、彼氏がいるって言ってましたよね」

「ふふ、そうだね」


 そのやりとりを弘世が耳にしたら、きっと発狂していたに違いない。

 それほどまでに二人は美男美女の組み合わせであり、傍目には釣り合いが取れているようにしか見えなかった。


 二人は落ち着いたカフェに入り、温かいコーヒーを前にして、ようやく本題に入る。


「それにしても突然の連絡だったよね」

「はい……! ひびき先輩が、いろんな人の悩みを解決してるって噂を聞いて……」

「そんな噂が流れてたんだ……」


 どこから広まったのか、ひびき自身にも心当たりはない。だが事実、彼女はこれまで何人もの悩みを聞き、解決の糸口を与えてきた――もっとも、その実働の多くは弘世によるものだったが。


「それで、今日はどんな話?」

「ボク、身長が高くなったお陰か、陸上の成績もぐんぐん伸びていたんです」

「うんうん」

「でも……最近、成績が思うように出なくなってきて……」


 晶の専門は百メートルや二百メートルといった短距離走。

 伸びた手足はストライドを大きくし、彼女をアスリートとして順調に成長させてきた。だが、ここにきて停滞の壁にぶつかっているのだという。


「陸上のことかぁ……私にできることあるかな」


 ひびきは心の中で弘世のギフトを思い出す。

 走力そのものを高めるスキルは存在しない。せいぜい『姿勢改善』で骨格を矯正できるかもしれないが、目の前の晶はすでに無駄のない姿勢をしているように見えた。


「すみません。言葉足らずでした。相談の本命は、陸上じゃなくて……」


 晶は急にもじもじしはじめ、ひびきを手招きして耳打ちする。


「――ボク、胸が急に大きくなっちゃったんです。成績が落ちたのは、多分そのせいなんです」


 彼――否、彼女。

 晶の性別は、正真正銘、女性だった。

 背の高さや中性的な顔立ちゆえに王子様と称されてきたが、彼女はむしろ同性からの憧れと人気を一身に集めてきたのだ。


「…………自慢かな?」

「じ、自慢じゃないです!」

「でも、胸があるようには見えないんだけど?」


 そう言って視線を落とすと、平坦に見える胸元しか目に入らなかった。


「ひびき先輩……ちょっとトイレまでいいですか?」

「いいよ」


 二人は女子トイレの個室へと入り込む。

 晶は上着を脱ぎ、さらに服を重ねて脱いでいく。現れたのは、体を締めつけるような競技用インナーウェア。ただ、それでも胸の大きさはわからなかった。


 さらにインナーを脱ぐと見えたのはチューブトップだった。


「これが特別なやつで……かなり抑え込めるんです。きついですけどね。じゃあ……脱ぎます」


 そうしてチューブトップを外した瞬間――


「デッッッッッッッッッッッッ!?」


 ひびきは思わず目を剥いた。


 そこに現れたのはシンプルなブラに収められた、想像を絶するサイズの胸。


「あ、あの……そんなに見つめられると……」

「ね、ねえ、これ何カップあるの? 私よりも大きい気がするんだけど!」

「えっと……Iカップ……ですかね」

「はぁぁぁぁぁぁぁ!? デカすぎ! どうやって今まで隠してたの!?」

「だから、このチューブトップが優秀で……」


 ひびき自身も胸には恵まれているが、それでも目の前の後輩のサイズは比べ物にならなかった。


「霧乃のお母さんや沙織ちゃんよりも大きいんじゃ……」

「あはは……」

「これ、走るどころの話じゃないでしょ……」


 晶の言葉が大げさでないことを、実際に目にしたひびきは理解した。

 これほどの胸を抱えて走れば、成績に影響するのも当然だ。


「中二のときから王子様って呼ばれてたよね?」

「あの頃はまだ身長は低かったですけど、そう呼ばれてました」

「こんなに大きな胸、隠すの大変だったでしょ」


 苦笑する晶は、近頃の苦労を打ち明ける。


「前に胸を抑えないで学校に行ったんです。そうしたら練習中、ばいんばいん胸は揺れるし……以前よりも男子に見られてる気がして……」

「そりゃそうだよ。男って揺れるものが大好きだからね」

「そ、そうなんですか……」


 ひびきの脳裏に光景が浮かぶ。

 運動着姿で全力疾走する晶。その胸が上下左右に弾み、周囲の男子たちは顔を真っ赤にし、慌てて下半身を押さえている……。


 胸を隠さなければ、晶は競技どころか存在そのものが刺激的すぎる存在になってしまうのだ。


「こんなに大きな胸、必要ないんです。ただ速く走りたいだけなのに……邪魔で……それに男子に見られるのもなんだか嫌で、力も出せないような気がして――」


(胸を小さくしたい……なら弘世の『脂肪燃焼』で可能かもしれない。でも、簡単な話じゃない。覚悟はいる……)


 ひびきはひと呼吸置き、真剣なまなざしで問いかける。


「あきら。胸は女性にとって大事なものだよ。今は必要ないと思っても……」

「ひびき先輩……ボクが輝けるのは今しかないんです! 小さい頃から走るのが好きで、速く駆け抜けることだけを望んできたんです!」


 晶が述べたのは、学生という今だけの大切な時間。

 もしこれが大人になればどうだろうか。思うように走れなくなり、次第に落ち込み、この胸さえなければと悔やむこともあるかもしれない……。


「……じゃあ、今彼氏は?」

「いると思いますか?」

「だってモテるでしょ?」

「女性には、ですけどね。……ボク、ずっと陸上ばかりしてきたので、恋愛はよくわからないんです」


 すでに答えは出ていた。晶は迷っていない。

 だからこそ、ひびきは決意を込めて告げる。


「――あきら。胸を小さくする方法がある。でもそれは、羞恥心とか、女の子としてのはじめてを捨てる覚悟がいる。……あきらはそのために、えっちなことにも耐えられるかな?」


 ひびきが真面目な声音で言い切る。

 その真剣さに対し、晶はぽかんと口を開け、呆けたような表情を見せていた。


「え、え……えっち!?」


 そうした話題に慣れていない晶の頬は、みるみるうちに赤に染まっていった。







――――


そういえば、四章が終わったのにプロフィールなどの話を差し込んでいなかったので、後ほど載せたいと思います。


本作ももう少しで★9000ですので、応援お待ちしています。



また、以下の作品の★★★評価やフォローもぜひお待ちしています!


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