第31話
インターハイも決勝と言うことでキックオフ30分前にも関わらず、これまでの試合よりも更に多くの観客が詰め掛けていたいたが、そのほとんどが岩手県の強豪にして全国最強の私立弥勒学園のインターハイ四連覇の偉業を見ようと言うサッカーファンや関係者だった。
そんなスタンドの光景を見ると当然選手たちは秀道寺学園の応援一色だった予選を思い出すのだが、アップを終えてロッカールームに戻ってきた選手たちにネガティブな感情はなかった。
「学校の子たち以外ももうちょっと応援増えてるかも? って思ってたけどそんなこともなかったね」
「彼女も「私のファンを呼ぼうか?」って言ってくれたけど断らない方が良かったかな」
「別華君、その判断は間違っていませんよ」
「香辛料乙女たち? だったかのグループ名は」
「そうそう、あそこのファンの人たちちょっと過激だからね……別華君のこと知れたら刺されかねないし」
「ぞっとしない話だな」
「刺されかねないリスクは義薬こそ負ってると思うけどね」
二年生組の面々がロッカールームのベンチに座って話していると、コンコンと瑠璃が壁を叩き、ミーティング開始の合図をする。
まずは、
「この試合のチームキャプテンは野々鐘君にお願いします」
と前日に監督が伝えた通り三年生の野々鐘がキャプテンマークを巻いた。
「作戦は昨日伝えた通りです。難しい試合になると思います。でも後一勝すれば優勝なんです」
選手たちの表情は良い緊張感で満ちていた。昨日の決起集会が効いたんだろう。
「皆さん、頑張って来て下さいね!」
「ウス!」
発破をかけるまでもなかった。頑張れと言えば最後まで頑張れる子たちなのだから。
✕ ✕ ✕
スタンド──観客席のおおよそ8割を弥勒学園の関係者が占める中で一昨日と変わらずに応援に来ていた一年三組の面々が肩身の狭い思いをしないで済んだのはひとえに隣に鎮座ましまし居られるサッカー部キャプテンのお陰だろう。
「解説役を頼まれたってんで来たがまぁあれだ、試合見てて分からねぇことがあったら聞いてくれや。答えられる範囲でなら答えるんでな」
「「「よ、よろしくお願いします」」」
おずおずと頭を下げるとおうと返してくれる先輩。
城ヶ崎と冴木の2人は緊張していないようだったがそれが残りの3人には不思議だった。
「早速で済まないが今日の試合に坂逆は来るの?」
となかなか涼しげな格好をしている冴木が分からねぇことを聞いてみる。が、
「試合見ててって言ったぜ? そいつぁ試合が始まってからの楽しみってやつだな」
快活に笑う騎院にはぐらかされてしまった。
「あ、あの!」
次に口を開いたのは勇気を出してみた睡蓮だった。
「んに、言ってみ」
「相手のチームってその、やっぱり強いんですか?」
「三連覇中のディフェンディングチャンピオンだからな。付け加えんなら去年のプレミアも優勝してるってんで、ユースチーム合わせても今んところこの年代じゃ全国No.1なんじゃねぇかな」
「ゆーすちーむ?」
小声で傾げるお嬢様にバスケットボール部所属のスポーツ少女が「プロチームの育成組織のことよ」耳打ちした。
「そのチームよりも、強いの???」
とまじまじと市之瀬の顔を見つめて(照れさせた)睡蓮は驚きを声に出して言った。
「ってことだな。でもまぁ何が起こるかわからねぇのがこのスポーツ、強ぇ方が勝つんじゃなくて勝った方が強ぇってやつだ」
「あっそれ聞いたことあります」
バスケ部の部長の口ぐせですと聞いて騎院は懐かしむように笑った。
「俺が教えたからな。元は皇帝フランツ・ベッケンバウアーが言ったんだけどだからまぁ睡蓮後輩、奴さん強ぇ相手に違いねぇがうちより強いかはやってみなきゃわかんねぇ」
力強く、後輩を安心させるように騎院はそう断言した。
スタンドの他に目を向ければ中立の人間もいる。例えば記者やスカウトのコンビだ。とは言え彼らはよりシビアに事態を見ていて、チームの大黒柱が抜けた北高校に特段の期待を抱いてはいなかった。
が、
「言うて俺が抜けたところで戦力ががた落ちする訳じゃねぇよいきなりはな。そもそも華っから1人でどうこうなるスポーツでもねぇよ。ひとまず頼安と別華の2人が居りゃ攻め手に欠けるこたぁねぇ」
「先輩方上手いんですね」
「上手いよそらな。じゃなきゃここまで来れちゃいねわな。去年今年と躍進しただけでプレミアなんぞ夢のまた夢じゃ全日本にも引っ掛かりがねぇってだけで世代別レベルだよ。そんな奴らがたまたま集まったってんで今年は狙えるって踏んだんだ」
マネージャーの妹だから、と言うわけでもないが先程から続く市之瀬冬乃の質問になるべく丁寧に答えていた。
「インターハイ優勝を?」
眼鏡の縁を光らせて、冴木が言った。
「まぁな」
騎院は頷いて答える。
──インターハイ優勝。まず一冠目。
「ってそろそろ試合だな」
眼下に広がる緑生なグラウンドでは選手が入場している。
✕ ✕ ✕
いつだったかのフットサルコートで会って以来の再会となった国森と優狩だったけれど、ゲートでたまたま隣に並んでも会話は無かった。そもそもこの競技に真面目な国森がトラッシュトークなどに興じる柄でも無いことはかつてボランチでコンビを組んでいた優狩は重々承知していた。
だからこそ。
「今日は勝たせてもらうから」
と誰かのように、強敵を前にして不敵な笑みを浮かべる。
そうすれば彼も、
「ふっ」
と笑うことを知っているから。
とまぁ健全な青少年のスポーツとあれば爽やかな戦いにになるのは明白なのだった。
「こりゃまずいな」
ピッチに入場する選手たちを見て騎院は嫌な予感があった。
「にゅーたいぷ?」
「どうにも順当な試合展開になっちまいそうだな。オープンな展開に持ち込んで打ち合い上等ってのが勝ち筋何だがこりゃ相手に余裕がありすぎる」
「相手に余裕がある方が油断していて良いんじゃないんですか?」
と言うのがジャイアントキリングの鉄則であり、それを不安視するのが市之瀬には理解できなかった。
「あのレベルじゃ油断の生じようがねぇんが肝だな。だから展開でこじ開けなきゃならねぇってのにあの顔付きは勝ち癖が滲み付いて仕方ねぇ」
──常勝軍団。
反対スタンドに目を向ければそう書かれた垂れ幕を見ることができるだろう。
「キャプテンは勝ち癖肯定派?」
準決勝の試合前の会話を思い出して冴木が問い掛けた。
「肯定派もなにもはなっから存在するもんだからな」
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