第30話
決勝進出が決まったことに北高校の選手たちは喜びこそしたものの、夢うつつのような現実感の無さを感じたりはしなかった。それもインターハイ優勝と言う目標を明確に掲げて居たからだろう。最初に本気で取り組んでいる人が居て、あんまりにも真剣なものだから内心馬鹿にすることも出来ず、いつの間にか本気にさせられていた。
だからその本気で取り組んでいる人が試合に出られないとしても、その目標を達成するべく懸命になれることに不思議は無かった。
翌日も北高校のグラウンドで軽く調整を済ませると一同はホテルへと戻り、夕方まで身体を休めるべく自由に過ごしていた。
そうして時刻が来るとホテルの宴会場へと足を運ぶ。
二年生が計画した決起集会は決勝戦進出が決まったと言うこともあって目論見通りの盛況だった。サッカー部OBや資金を援助してくださった後援会の人たち、決勝までチームを後押ししてくれた吹奏楽部の部員らや選手たちの友人たちが既に揃っていた。
キャプテンが乾杯の音頭を取ると決起集会が始まる。
「とうとう決勝戦、だね♪」
招待者の
「まさか本当に決勝まで行くとは思わなかったンゴねぇ」
「俺も同じだよ。特に準決勝は本当にぎりぎりだったからな」
「そうね……、ねぇ栂池。私たちまで来てよかったの? そりゃこんなパーティーに招待してもらえたのは嬉しいけどさ」
「涼華から聞いたけどここ数試合はずっと来てくれてたんだろ? それに先輩も人数は多いけりゃ多いほど良いって言ってたしな」
「まぁそれならいいけど。あ、でも相原とかはどうしたのよ。あんた仲良いんじゃないの?」
教室内で中心的な位置に居るグループを指して市之瀬は聞いた。別段一軍だの二軍だのとか気にしているつもりはないが、ただ栂池が彼らを呼んだ風に見えないのが疑問になっただけ。こう言うちょっと騒ぐ的な催しは彼らの大好物だろうに。
「仲良いっつても別につるんでる訳でも無いからな。学校なら喋りゃするけど。つかまぁとりあえず今日呼んだのは応援に来てもらってたお礼だからあんまり細かいことは気にすんなよ。ほら、城ケ崎何てもうビュッフェ二週目だぜ?」
いつのまにやらプレートを空にしていた城ケ崎は再びプレートを山盛りにして持ってきていた。
「ローストビーフが絶品ゴねー」
「はぁ……何だか余計な気心だったみたいね。私たちも何か取ってきましょ」
「だな。城ケ崎、おすすめはある?」
「なんと蟹クリームコロッケがあったンゴねぇ。冴木の好物ダロワイヨ?」
「よく覚えていたな。一つ取ってくるとしよう」
こうして女性陣がビュッフェに行く間取り残される男子2人。
「で、本当のところどうして呼ばなかったンゴ?」
「呼ばなかったって誰を」
「陽キャ一軍ズ以外居ないンゴ」
「坂逆もだけどその妙な言い方本人たちに聞かれないようにしろよ? ──どっちかしか呼べないだろさすがに」
「二択でこっちを選んだってことやんね」
「いや、三択だ。積木条もだ」
「? 呼べばよかったやないの」
「坂逆が居ないのに呼んでどうするんだよ。で色々迷ったけどま、正解を選んだと思うな」
「その心は?」
「女子が多い方が良いに決まってるだろ」
「間違いないンゴ」
思春期な男子高校生は見解が一致したようです。
「おめでと瑞希。どう、さすがに緊張してる?」
「心配ありがとね。でも大丈夫、さっきまではスッゴク緊張してたんだけどみんなの顔見てたら落ち着いてきたみたい」
「なら良かった。あ、そうだ。忘れないうちに」
と、ほっとした表情の来未は自分の後ろから1人の女子生徒を優狩の前に引っ張り出す。
その女子生徒は緊張しているのか頬が微かに紅潮していた。
「ほら」
「せ、センパイっ……!」
抗議の目を女子生徒は来未に向けるがどこ吹く顔だ。それに観念したのか、女子生徒はゆっくりと口を開いた。
「あ、あの……私優狩センパイのファンなんです! なのでその……」
口ごもる後輩に助け船を出すつもりで、冗談ぽく優狩は、
「サインが欲しいってこと?」
って言ってみるとぱぁっと女子生徒は目を輝かせていた。
「…………」
サインを受け取った女子生徒はペコリと頭を下げると、嬉しそうに一年生の女子たちの集団に駆けて行った。
「センパイ、これはどう言うこと?」
「あなたの頑張りぶりを見た後輩たちの間でファンが増えてるの。彼女、大勢で押し掛けたら迷惑かもってやったじゃんけんで勝った子なのよ」
「大勢……」
「一躍人気者ね」
幼なじみのからかう声にはぁと溜め息を吐くことしか出来なかった。
✕ ✕ ✕
ところで、翌日に決勝戦を控えてはいるので決起集会なんぞを開催しつつも午後5時から7時までと言う非常に健全な時間に行われていた。だから、と言うわけでもないのだが監督責任は年上のOB諸君に任せて瑠璃は1人病院に赴いていた。
「っつうわけで監督かぁ今日は来てねぇんだ」
「それってキャプテン、坂逆んとこに行ってるってことすか?」
「逸るな栂池後輩、監督ああ見えて人見知りするってんで理由付けて逃げただけかも分からんぜ」
「へぇ、監督が人見知りなのは意外っすね」
意外なのはむしろこのどこをどう見ても体育会系の学年主任にしか見えない部長と気安く話している栂池の方だろう、と翠川は内心突っ込んでいた。それとなく睡蓮の方を見るとどうやら同じ感想だったらしい。天敵を前にした小動物かってぐらい顔が強張っていた。
「ああっと、お前さんが睡蓮後輩だったな。予選から来てもらっちゃいるのは聞いてるぜ。んで、差し入れまで用意してもらってたみてぇだしな。えれぇ感謝してるよ」
「いえいえ、その、私の方こそ楽しく試合見させてもらってました……」
ただ緊張しぱなっしの睡蓮だったけれど、そもそも部長に挨拶がしたいと栂池に言ったのは睡蓮だったのだ。
そのことを冴木に聞いてみると、
「レストランでシェフを呼ぶのに近い」
との事だった。
もっとももう少し睡蓮涼華の事情に明るければ、それがこう言った立食パーティーに慣れているが故の行動であることが察せられただろう。
「でそっちがマネージャーの妹さんか。わりぃけどお前さんのお姉さんは明日の試合に向けたポートフォリオを作るとかで部屋にいるぜ。なんか伝言があるなら伝えとくが」
「ええっと、それじゃあその頑張ってねってお願いします」
それに心得たと返答して、騎院は栂池の方へと身体を向ける。
「決勝のことを忘れろとまでは言わねぇがとにかくリラックスしろよ、体力勝負になるだろうからな。んじゃ、栂池の奴をよろしくたのんますぜ」
と最後に残して騎院は去っていた。
「……豪快な人ね」
とても二つ上には見えないわと言う感想をすんでのところで飲み込んだ。
「瑠璃教諭は坂逆のところに行っているのか。明日は期待できるのかな」
一方の特に騎院に物怖じしていなかった冴木の興味は別にあり、思案げに言った。
中学の頃から坂逆のフットボールに対する常軌を逸した執着は知っていたが、彼がプレーしているところはまだ見たことがなかった。
「もともとリハビリが順調にいきゃ決勝には間に合う話だったからな。キャプテンが出られない分あいつがいれば百人力だ」
ローストビーフを摘まみながら栂池が答える。
「あのキャプテンの代わりにね……栂池、やっぱりあんたの目から見ても坂逆って凄いの?」
冴木と同様に未だ緒熟のプレーを見たことがない市之瀬も気になっていたことを聞いてみる。
「いんや、ぶっちゃけるとすげぇはすげぇけど軒並み及第点って感じなんだよな」
「? どういう意味よそれ」
「キック精度なら別華先輩の方が上手いし、ドリブルは頼安先輩のが上でパスとポジショニングは優狩先輩、守備に関しちゃ野々鐘先輩の足元にも及ばないんだけどでもどれも高水準なんだよ」
「バランスが良いってこと?」
「ってこと。で、そんなあいつが一番やべぇのは場馴れし過ぎてることだな。翠川ってバスケの試合で緊張してミスることあるだろ?」
「しょっちゅうだよ」
「……まぁ聞いといてあれだけど俺もミスることあんだけどさ、あいつはそれがない。緊張でミスることはこのレベルの試合じゃあり得ねぇって感じだよ。昨日の試合でもそうだったろうな」
「坂逆君そんなに凄いんだ」
「教室でぼけっと授業聞いてるときとそのまま同じ緊張具合で試合に臨めてるんだよ。正直あのメンタルが一番やべぇな」
「……まぁでもそれはあいつらしいっちゃらしいわよね」
「そうだな。いつもの図太さだ」
と栂池の話に頷く2人。
「ただそれで明日出られるにしても全体練習もやってぇねぶっつけ本番だし、いくら神経太いからってあいつに頼らないで勝つのがベスト何だけど相手が三連覇中の強豪じゃな。部長抜きでやるのはきちぃ相手だよ」
「そんなに強い相手、なの?」
「さっき市之瀬の姉ちゃんに決勝までの映像見せてもらったんだけどあれは文句無しで最強だよ。個々の質じゃ勝ってる部分もあるけどチームの練度が違う。世代別代表クラスの選手がめちゃくちゃ走ってるんだから隙もないよ」
「……そっか」
「とは言ってもうちも決勝まで来てるんだからやれないってことは無いと思いたいな」
暗い空気になりかけたのをそう明るく言って誤魔化した。
それにしても、決勝前日に決起集会とは、とサッカー部の誰もが、主催した二年ですら薄々そう思っていたのだが今はやって本当に良かったと思っている。
あんな試合映像を見せられては、こうやって気を紛らわせでもしないと満足に休めそうにもなかったから。
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