第3話 お兄ちゃんの役目と妹の献身



「おかえりぃ」


 ガチャリとドアの開く音。

 お鍋の火を止めて、週5で入っているバイトから帰ってきたお兄ちゃんをいそいそと玄関に向かう。なんかあれだよね、夫婦みたい。


 前はバイト先までお迎えに行ったりもしてたんだけど、夜遅いし心配だから来るな(実際は「鬱陶しいから迎えに来んじゃねえ」)って言われてから、迎えにはいかなくなった。


 その代わり、家でお出迎え。


「お兄ちゃんお兄ちゃん!」

「うるせぇ」

「ご飯にする?お風呂にする?それともあ・た」

「寝る」


 ばっと両腕を広げた私の横をすり抜けていくお兄ちゃん。


 そっ、


「そんなの!だめだめだめ!!萌花が愛情込めて作ったご飯食べてよ!!」

「疲れてんだよ。大体、なんでこんな時間まで起きてんだよ。帰り遅いから寝てろって言ったろ」


 慌ててお兄ちゃんの腕にしがみつけば、お兄ちゃんは疲れ切った顔で振り返った。

 靴箱の上に置いた時計を見れば、現在23:00を指している。

 た、確かに夜更かしはお肌に悪いけど……。


「だ、だって、」

「……」

「お兄ちゃん頑張ってバイトしてるのに、あたしだけ寝られないもん」


 別に生活に困ってるわけじゃない。むしろ、この街で高級マンションといわれるところの上の方の階に住んでいる。夜景がめちゃめちゃきれい。でも、お兄ちゃんは沢山バイトをしている。私と、お兄ちゃんのために。


 両親は共働きでほとんど家にいない。というよりも、昔からその事で散々喧嘩していたのだが、あることがきっかけで大喧嘩して以来、話すところさえ見た事がないし、家にも帰ってこない。親子仲は最悪だった。


 私、あの人たち大っ嫌い。


 そんなこんなで、このマンションにはほとんどお兄ちゃんと二人暮らししているような状況だ。


 食費とか小遣いとかは、口座に振り込まれているみたいだけど、お兄ちゃんは一切使おうとしない。その代わり、バイトして稼いだお金を私に渡してくれてるんだけど。


 こうして疲れ切ったお兄ちゃんを見ていると、なんだか申し訳なくて、お小遣いも使えずに貯め込んでいる。


「ねぇ、やっぱりあたしもバイト……」

「だめだ」


 私もバイトしたいのに、なぜかお兄ちゃんは、私のバイトを許してくれない。


「でも、」

「…お前は何も心配しなくていいんだよ」


 そう言って、極悪面で私の頭を撫でるお兄ちゃん。


 でもね、お兄ちゃんの眉間に皺が寄ってるのは、偏頭痛のせいだって知ってるよ。それが、疲れと寝不足で更に酷くなったってことも。


「萌花、腹減った」


 お兄ちゃんは、それを絶対、萌花に教えてくれないってことも。









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