第12話
「何着たらいいんだろ?これ?それとも・・」
広げまわった服を見ながら、
今日は
どんな服でいいかなとは思うが、男の子と二人で出かけるのだから、それなりにオシャレをした方がいいだろう。
とはいえ、友達と出かけたことすら普段ないのだから、男の子とお出かけなんてもっと何を着たらいいのかわからない。
美紀はため息をついた。
「美紀―」
母親がノックもなく部屋に入ると、広げた服で荒れた部屋を見て、「何してるの!?」と声を上げた。
「いや、あの実はちょっと今日お友達とでかけるんだけど、何着たらいいのか迷っちゃって・・・」
母親は何かを察しましたという顔をして「母さんが選んであげるわよ」そういって鼻歌交じりに服を選び始めた。
「美紀は色も白いし、顔立ち的にもこのワンピースがいいんじゃないかしら。これにカーディガンを羽織ったらばっちりだわ」
母の選んだワンピースを着てみる。
少し暗めの水色のワンピースでスカート部分はプリーツ加工されている。
白いカーディガンを羽織る。
「やっぱり似合ってる。かわいいわ~さすが私の娘」
「似合ってる?」
「うん、これでばっちりよ」
「お母さん、ありがとう」
「いいのよ。デート楽しんできなさいね」
母はそう言って笑いながら部屋を出ていった。
「デート・・・」
男の子と二人で遊びに行くのは・・・デートだ。
「私はデートに行くの?」
美紀は自分しかいない部屋の中で気づいたらそうつぶやいていた。
□■□
「美紀先輩―!」
待ち合わせ場所にはすでに裕二は来ていた。
裕二は美紀を見つけると、大きく手を振ってきた。
大きな声で名前を呼ばれてなんだか恥ずかしい。
周りの視線に耐えつつ「ちょっと」と裕二を引っ張ってその場を離れた。
「美紀先輩、今日は来てくれてありがとうございます」
裕二は予想に反して白のロンTに黒のジャケット、黒のパンツというシックな服装だった。
いつもと違う雰囲気に少しドキッとしてしまう。
「・・・約束したから」
何と答えていいかわからず不愛想に答えてしまったが、「めちゃくちゃ嬉しいです」と裕二は気にしていないようだった。
裕二はそういうと「こっちです!」と張り切ってお店まで案内をしてくれた。
オムライスのお店は、こじんまりとした10席ほどしか席のないお店だった。
レトロな雰囲気で、落ち着いたお店だ。
ご夫婦で経営されているらしく、奥さんが「いらっしゃいませ」と席まで案内してくれた。
「美紀先輩、これがおすすめのオムライスです」
“名物!世界一のオムライス”と書いてある。
「じゃあこれにしようかな」
美紀がそういうと「この世界一のオムライスを2つ」と裕二は注文した。
オムライスが届くまでバイト先での話で盛り上がった。
「店長は彼氏いるらしいんですけど、仕事しすぎで、俺と仕事どっちが大事なんだ?と言われて、そんな女々しい男いらないと振ったらしいです」
「店長ならやりそうだね」
「その振られた元カレが、先週店に来たんですよ」
「えぇ!そうなんだ」
「でも、ストーカーって訴えるぞってブチギレて、店から追い出してました」
「さすが、店長」
美紀が感嘆の声をあげると、ちょうどオムライスがやってきた。
ふわふわ卵ではなく、レトロな昔からあるしっかりと卵をまいたオムライスだ。
大きめで食べ応えもありそうだ。
一口食べると、ケチャップライスに少しバターの香りがする。
「美味しい・・・」
「旨いですね!」
裕二はお腹が空いているのかバクバク食べている。
(藤崎くんもオムライス好きかな)
今日藤崎は香純と試写会へデートに行っているはずだ。
2人で楽しんでいるのだろうか。
胸がきゅっとつままれたような痛みを感じる。
「先輩、どうしました?気分悪いです?」
裕二が心配そうに、こちらをみている。
「ううん、ごめん。オムライスすごく美味しいね」
「俺これなら何皿分でも食べられそうです」
裕二は屈託のない笑顔を美紀に向けた。
「ごちそうさまでした」
全て食べ終わると、お腹がいっぱいだ。
「結構、量ありましたね」
「うん、お腹いっぱい」
お腹を少し減らすためにも、隣駅のショッピングモールまで歩くことにした。
「先輩は、どういう男の人が好きですか?」
「ど、どういうって」
「先輩の好みの男に少しでも近づきたいんです」
「好みって言われても・・・」
(背が高くて、爽やかで、私みたいな地味な女にも優しくて、話してくれる・・・)
亮悟の姿が思い浮かぶ。
「優しい人・・・かな?」
「優しい人で、他は?」
「他?うーん、爽やか、とか?」
「優しくて、爽やかな人ですね!わかりました!!」
裕二は元気に返事をすると「そういう男、目指します!」と嬉しそうに笑った。
不覚にもその姿に少しキュンとしてしまう。
「今日はちょっと上着欲しいので、一緒に選んでほしいんですけど、いいですか?」
「私あまりセンスないけど、いいの?」
「美紀先輩に選んでほしいです」
ストレートな表現にドキドキしてしまう。
裕二のことは好きじゃないはずなのに動揺して仕方がない。
なんとなく心を見透かされそうで裕二とは目を合わせられないまま、ショッピングモールへ向かった。
ショッピングモールは週末ということもあって、多くの人で賑わっている。
「こっちのお店に行きたいです」
裕二に言われてそちらに向かおうとすると、「美紀ちゃん」と後ろから聞いたことある声がした。
イヤな予感しかしない。
でも反射的に振り返ってしまった。
「阿部さん。・・・藤崎くん」
嬉しそうな香純と戸惑った顔をした亮悟が立っていた。
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