第10話

美紀みきはため息をつくと、窓の外を眺めた。

今日はあいにくの雨模様だ。

数学は苦手なので集中して聞いていないといけないのに、なんだか集中する気になれない。

この雨のせいなのか―

横をみると、亮悟りょうごが授業を真剣に聞いている。

香純かすみちゃんは藤崎ふじさきくんが好きなんだよね)

なんで応援すると言っちゃったんだろう。

美紀は大きなため息をついた。


「橋本、授業中に大きなため息をつくなよ。これはそんなに難しくないだろ?」


教師にツッコまれて、クラスメイト達がクスクス笑っている。


(最悪だ・・・)

亮悟は心配そうにこちらを見ている。

「すいません」

美紀はそういうと教科書で顔を隠した。


授業終了のチャイムが鳴った。

ほっとして、教科書を片付けていると、「ねぇ、橋本さん」と亮悟が声をかけてきた。

「何か悩み事?」

「え!いやそんな・・・なんでもないよ」

「ほら、あの安田くんが、ね?そのことかなって」

そう言えば、安田に告白された。

その後はシフトがかぶっておらず、あの日以来会っていない。

「あぁ、あれは多分本気じゃないだろうし、その事では悩んでないから大丈夫だよ」

「じゃあ何で悩んでるの?」

亮悟の綺麗な瞳がこちらをまっすぐに見ている。

「いや、あの、その」

「亮悟くん、美紀ちゃーん」

美紀が答えに困っている間に、香純がやってきた。

「今日放課後どこか行かない?」

「ごめんなさい、今日は私予定があって」

今日は配信の日だ。

最近は色々あってメッセージの確認もできていないから、早めに帰って準備をしなければならない。

「そっかー。亮悟くんは?」

「ごめん、用事ある」

「えぇー二人とも付き合い悪いよ~」

「ごめんね。また今度一緒にいこう」

「絶対だからね」

そういうと頬を膨らましながら、香純は教室を出ていった。


「ねぇ、橋本さんって今日は入ってないよね?」

アルバイトのシフトのことだろう。

「うん、入ってないよ。藤崎君は今日入ってたよね?」

「そうなんだ。あのさ、予定ってもしかして―」

亮悟が続きを言おうとしたところでチャイムがなり、教師が入って来る。

「別に大したことじゃないから」

そう言って亮悟は次の授業の教科書を開いた。

(なんだったんだろ・・・?)


学校が終わり、自宅に帰るとパソコンを開いた。

最近は色々考えることが多くてメッセージを読めていなかった。

「ひゃ~こんなに来てたか」

思ったより来ていたメッセージを読んでいくと、ウィステリアからメッセージが来ていた。

“最近、ライバルが出てきました。彼は彼女にすごくアピールをしていています。今のところその子と仲良くしている感じでもないのですが、その男の子は明るくてコミュ力も高くて、いい奴なんです。彼女が好きになってしまうのではないかと、なんだか不安で心配です”


(私と同じだ)


香純は明るくて可愛くて本当に良い子だ。

私みたいなぼっちと友達になってくれて、いつもたくさん話しかけてくれる。

そんな素敵な彼女を亮悟が好きになってもおかしくはない。

応援すると約束もしたけれど、モヤモヤしてしまう。

いっそ香純が悪い奴だったらいいのにとか思ってしまう。


ウィステリアも同じ気持ちなのだろうか。


美紀はこのことを相談してみようと、プリントアウトした。


□■□


「みなさん、こんばんは。MIKIの恋愛相談ネットラジオの時間です」

MIKIの落ち着いた声が流れる。


「最近雨の日が続いていますが、皆さんが住んでいる地域ではいかがですか?私の住んでいる地域もいよいよ梅雨に入ってきました。雨は少し憂鬱にさせますが、様々な傘の花が咲くのを見れるのはこの時期ならではですよね。素敵な傘を買って、お出かけするのもいいかもしれませんね。それでは今日も恋愛相談を読んでいきたいと思います」


優しい音楽を流していく。


「今日も前から相談いただいているウィステリアさんから続きが送られてきましたので、そちらを読ませていただきたいと思います」


坂之上:来た来た!


ウィステリアの相談内容を読みあげる。

「どうやら彼女を好いている男の子が出てきたみたいですね。しかもライバルはどうやら魅力的な男みたいです。こういう時はみなさんはどうされますか?」


MIKIの問いかけに様々なコメントが流れた。


綺夏:それはアピール一択でしょ。負けないためにはアピールして、仲良くなるしかないよ。


坂之上:そんなに慌てる必要はないでござる。ライバルなぞ気にせず、自分と相手との距離をゆっくり近づけていけばいいでござる。


綺夏:ゆっくりなんてダメ!前に聞いた限りだと彼女は大人しい子みたいだし、押されたら落ちちゃうかもしれないよ。


まる:それはそれで運命でしょ。


(亮悟も押されたら負けちゃうかも・・・どうすれば・・・)


「アピールしていくというのが意見として多いようですね。アピールするというのは、どういうことをしていくのがいいと思いますが?」


“LINEを定期的に送ってコミュニケーションを取る”

“ご飯やお茶に誘う”

“遊園地やレジャーランドへ誘う”

“映画に誘う”

色んな意見が出されていく。


(藤崎くんとお出かけ・・・でもどうやって誘えば・・・)


「やはりコミュニケーションを取って、一緒に出掛けるという意見が多いですね。そうなると誘うのが難しいと思うのですが、皆さんはどうやって誘っていますか?」


綺夏:LINEで誘う!


坂之上:文(手紙)


まる:直接声をかけるのが一番いい気がする。断られても、誤魔化せるし。


「手紙というのは古風で素敵な感じがしますね。でも今時はLINEが多そうですね。どんな誘い方でもまずは勇気を出してみるということが大事なのかもしれませんね。ウィステリアさん、ライバルが登場して焦ったり、悩むこともあると思いますが、相手のことを思いやりつつ、お出かけへ誘ってみてくださいね。では次の相談へ移りたいと思います」


配信が終わり、ベッドに転がる。

「なんか今日は私の相談になっちゃったな」


(藤崎くんをお出かけに誘う・・・か)

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