第7話
「みなさん、こんばんは。MIKIの恋愛相談ネットラジオの時間です」
時刻は20時。
落ち着いた声が心地いいと言われることが多いので、なるべく意識して声を出す。
視聴者数がどんどん増えていく。
「今日もたくさんの方々に見ていただいてありがとうございます」
「前回の相談者であるウィステリアさんのことを皆さん覚えていますか?ウィステリアさんから“前回は僕の相談を取り上げてくださってありがとうございました。勇気を出して彼女と少し話してみました。緊張で上手く話せなかったんですけど、彼女のことをほんの少し知ることが出来ました。彼女ともっと仲良くなれるように頑張ってみたいと思ってます”とメッセージが届きました。前に進めているようで本当に良かったですね」
早速ウィステリアからコメントがくる。
ウィステリア:ありがとうございます。この前彼女と少しだけお出かけも出来ました。
「デート出来たんですね。最初の相談からそんなに時間が経っていないのにかなり前に進んでいますね」
綺夏:いいなー。初デート!
坂之上:うらやましいでござる。
ウィステリア:デートじゃなくて、たまたま会って、そのままその辺をぶらぶらしただけです。すごく楽しかったし、前より仲良くなれてきたと思います。ただ彼女があまりこっちを見てくれないので、脈がないのかなと思ってしまいます。
「相手の気持ちは見えないからこそ悩みますよね。皆さんはどうやって相手が自分に好意をもっているか、もっていないかを推測しますか」
様々なコメントが流れる。
「様々なアドバイスをありがとうございます。かなりたくさん来ていますね」
ラインなどメッセージの返信速度で推測する。
相手に好きというのをにおわせて反応を見る。
好きなタイプを聞いてみる。
休日の過ごし方を聞いてみる。
綺夏:目を見つめてみたらいいよ!目を見つめて相手がどうでるかみるの。相手が目を合わせ微笑んでくれたら脈ありだね。
澄んだ綺麗で大きな瞳がこちらを見ている。
だんだんとその瞳が近づいてきて・・・
「ゴホゴホ・・失礼しました」
想像してむせてしまう。
「目線については、好きでも恥ずかしくてそらしちゃうことがありそうですね。」
ウィステリア:様々なアドバイスありがとうございます。学校だとなかなか話せないので、連絡先を交換してみてアドバイスしもらったことを実行してリアクションを見てみます。
「またどんなリアクションだったかぜひ教えてくださいね。では次の相談をご紹介させていただきます」
1時間が経って配信を終えると、美紀はパソコンの電源を落とした。
「ふぅ」
亮悟と目を合わせた姿をまた想像してしまう。
(だんだん顔が近づいて・・・その後何を想像してたの、私)
恥ずかしくなってきて、枕に顔をうずめた。
(藤崎くんは私をどう思っているんだろ・・・)
□■□
「いらっしゃいませ」
美紀はいつものように客を席に案内し、メニューを差しだす。
「お決まりになりましたら、こちらのボタンを押してお呼びください」
そう言ってカウンター前に戻る。
アルバイトを始めて一ヶ月以上経ち、大分慣れてきた。
「今日は結構お客さん来てるわね」
店長は嬉しそうにそう言った。
「そうですね。平日の夜の割に多い気がします」
「やっぱり、彼のおかげかしらね」
店長の視線の先には、亮悟がいる。
亮悟は笑顔を振りまきながら、客のコップに水を注いでいる。
客のほとんどが女性だ。
女性客たちはキャッキャ言いながら、亮悟を見ている。
亮悟は水を注ぎ終えて戻ってきた。
「藤崎くんはうちの店の救世主だわ」
店長がそういうと、目を「?」にしながらも「ありがとうございます」と笑った。
ピンポーンとボタンが押され、「いってくるわ」と店長が呼んでいるテーブルに向かった。
「今日は終わり一緒だね」
「うん」
「今日も送るね」
いいです、と言いかけて、言葉を飲み込む。
こういう時は素直にお礼を伝えるべきだ。
「・・・ありがとう」
「うん」
嬉しそうに亮悟は返事をすると、またピンポーンと音がして、亮悟がホールへ出ていった。
美紀は、ふぅと息を吐いた。
(すごい緊張した・・・)
「お疲れさまでした」
仕事を終えて、亮悟と一緒に店を出た。
少し前まで雨が降っていたのか、水たまりが出来ている。
「今日は忙しかったね」
うーんと亮悟が背伸びをしている。
「うん。確かにいつもより忙しかったかも」
美紀も少し首を回して空を見上げた。
雨が上がって空に雲はなく、月や星が見えた。
「綺麗・・・」
水たまりに満月が映っている。
「ほんとだ、綺麗だね」
亮悟もそう言って、スマホを取り出して撮影しようとする。
「なんか写真で撮ると綺麗じゃないなぁ・・・」
「機械で見るより、目で見るのが一番きれいだよね」
美紀がそういうと亮悟は少し間をおいて「そうだね」と返事をした。
「橋本さん」
「はい?」
「あの、連絡先交換しない?アルバイトのことでなんか連絡とりたくても学校で話すのは危ないしさ」
「連絡先・・・」
「イヤだったらいいよ、もちろん」
亮悟が慌てて手を振りながら「無理はしないで」と言っている。
そんな姿が可愛くて思わず、笑ってしまった。
「え?」
「ごめん、なんかおかしくて。王子様みたいにいつも微笑んでるのに、今は全然王子様っぽくないなって」
美紀はそこまで言って「あ、ごめん」と謝った。
王子様ぽくないは完全に余計だった。
「全然!むしろ橋本さんが笑ってくれたのなら良かった」
そう言って亮悟は満足そうな顔をした。
美紀は鞄からスマホを取り出した。
(やばい、友人と交換したことないから、やり方がわからない・・・)
「交換、してくれるの?」
「・・・やり方がわからないんだけど」
美紀がスマホを差し出すと、優しい声で「ここ押すね」「これ見ても大丈夫?」と言いながら、美紀のスマホを操作して連絡先を交換した。
「これでお友達になってるからメッセージ送れるよ」
「あ、ありがと」
美紀はそう言ってスマホを受け取ると、アプリを開いて、友達の部分をタップする。
“
名前が載っている。
それを見ただけで胸がきゅっとなる。
思わず顔がにやけてしまいそうになる。
「これから遠慮なくメッセージしてね」
亮悟にそう言われて、もう美紀は真っ赤な顔で頷くことしかできなかった。
何もかも順調。
美紀はそう思っていた。
だから、お風呂で鼻歌も歌ったし、スキップで自室へ向かった。
翌日には、まさかライバルが出現する―。
美紀は、そんなことも知らずにただただスマホをみてにやけていた。
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