第6話
翌日、
おさげ髪からボブになり、雰囲気が変わったので少しはリアクションがあるだろうと思ったからだ。
しかし、心配する必要なんてなかった。
ほんの少しこちらを見る人はいたが、誰も指摘はしてこない。
(現実ってこんなもんだよね)
ふぅとため息をつくと、「おはよ」と明るい声がする。
「
「やっぱりボブ似合ってるね」
「・・・ありがとう」
高嶺王子に褒められたならそれだけで十分だ。
こんな時は可愛く微笑んだ方がいいのだろう。
なんとか笑おうとするが、すぐに
隙間から見える亮悟は、楽しそうに笑っている。
笑顔が眩しい。
(昨日は夢だったかも・・・)
美紀はいつものように本を開いて、続きを読み始めた。
最後の授業が終わり、片づけをして教室を出ようと足を出した時、いつも騒がしい男子たちがぶつかってきた。
「ひゃ・・・」
よろめいて、バタンとこける。
起き上がってみると、あたりが上手く見えない。
ぶつかった衝撃が強かったのか、メガネが飛んでいったようだ。
美紀はなんとかそれらしいものを見つけて、手を伸ばた。
「あ」
メガネを拾おうとした瞬間に、誰かの足がメガネを踏んだ。
パキ―
絶望的な音が廊下に響く。
足をどけると、無残な残骸が転がっている。
「ごめん!!どうしよ・・・」
見上げると、ぼんやりとしか見えないがそこには亮悟がいた。
「本当にごめんね」
亮悟はもう何度目かわからない謝罪の言葉を言った。
「もういいよ、わざとじゃないんだし」
美紀がそういっても、亮悟は申し訳なさそうな顔をして横を歩いている。
美紀はかなり目が悪いので、メガネなしで帰るのは危ないだろうと亮悟が家まで送ってくれることになった。
大丈夫だと伝えたが、何もしない方が辛いというのでお願いした。
「弁償するよ」
「いいよ、予備のメガネが家にあるし」
「でも困るでしょ?」
「大丈夫だよ。私がこけたのが悪かったんだし」
「でも僕がちゃんと足元見てれば・・・」
また悲し気な顔をしている。
これ以上、王子の顔を曇らせるわけにはいかない。
勇気を出して思っていたことを口にした。
「・・・あのさ、本当にコンタクト似合うと思う?」
「それはもちろん、似合うと思ってる」
「じゃあ、私コンタクトにするからいいよ、メガネ」
「え?」
「なんていうか、コンタクトの方が便利そうだし、前から興味あったし」
本当はコンタクトを目に入れるなんて怖すぎてできそうな気がしない。
「ほんと?」
こっちの気持ちにも気づくことなく、なぜだか亮悟が嬉しそうな顔をしている。
「だから、メガネが壊れたのはいいきっかけだし、気にしないで」
そういうと、亮悟は「ありがとう」と微笑んだ。
家まで送ってもらってから、ため息をついた。
言ってしまったからには、コンタクトにしなければならない。
「どうしよ・・・」
“眼鏡も可愛いけど、コンタクトにしたらもっと可愛いんじゃないかなって思って”
亮悟は本気で言っていたのだろうか。
本心は見えないけど、一度試すくらいはいいかもしれない。
鏡に自分を写してみたが、ぼやけてよく見えなかった。
□■□
(ふぅ・・・間に合った)
予鈴がなるころになんとか教室に滑り込めた。
コンタクトを入れるのにこんなに手間取るとは、思わなかった。
しばらくは予備の眼鏡で過ごしたが、コンタクトを購入し、少しずつ装着時間を伸ばし、いよいよ学校にもつけてきたのだ。
入れるにはコツがあるらしいが、今朝は入れるのに15分以上格闘してしまった。
ボブにした時リアクションがなかったので、そこまで心配せずにきたのだが、今回は思ったより反応があった。
少しどよめきがあったほどだ。
「あれ、橋本さん?」「印象違うね」
そういう声も聞こえる。
(もしかして・・・変?)
「おはよう」
亮悟か爽やかな笑顔で挨拶してくる。
「おはよう」
「あ!コンタクトにしたんだね」
「うん。変じゃないかな?」
「変じゃないよ。すごくかわいい」
高嶺王子は今日もストレートに褒めてくる。
「あ、ありがと」
逃げ出した気持ちを抑えて、お礼を言った自分をほめてあげたい。
その後すぐに授業開始のチャイムがなり、またいつも通りの一日が始まる。
でも今日はほんの少し昨日までとは違う。
髪を切ってコンタクトにしただけ。
自分自身はまだなにも変わっていないけれど、世界が明るくなった気がした。
(コンタクトのせいだな)
窓の方を見ると、自分がうっすら映っている。
見慣れない顔の自分だ。
でもその顔はほんの少し微笑んでいた。
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